「だって、研究所には、みなさんが待ってるんです。わたしの帰りを待ってるんです。
開発スタッフの方々と、そして…」
「……」
「まだ見ぬわたしの妹たちが」
あの日、マルチを帰さなかったらば、あるいは…。
マルチの心 −第五話−
二時限目の講義が終わったあと、あかりは浩之と一緒に昼食を取ろうと浩之が講義を
受けている教室に足を運んだ。
教室に到着すると左右の扉から学生たちが丁度出てきたところだった。
その人の流れからあかりは浩之を捜すが浩之の姿は見つからなかった。
「どうしたんだろう?」
あかりがきょろきょろしていると後ろから声をかけてくる者がいた。
「は〜い、あかり。何をきょろきょろしているの?」
あかりが振り返ってみるとそこにいたのは来栖川綾香であった。
来栖川綾香は来栖川財閥の次女で姉の芹香も同じ大学に通っている。
高校は違っていたが芹香と浩之との関係で知り合うようになり、時には一緒に遊びに
行ったりもした。
現在、浩之と綾香は同じ学部に所属しており、講義が終わって外に出てみたらあかりが
浩之を捜しているようなので声をかけたのだった。
「あっ、来栖川さん。」
「ふふっ、浩之と一緒にお昼を食べようと思って来たのね。」
「でも、残念ね。あいつ今日は講義に来ていなかったわよ。」
「えっ、浩之ちゃん来てないんですか?」
意外な顔をするあかりを見て綾香はおやっと思った。
「どうしたの?信じられないような顔をしているけど。」
「うん、浩之ちゃん、大学に入ってからは休んだことが一回もなかったから。」
「そういわれてみればあいつ、講義だけはまじめに聞きに来ていたもんねぇ。」
「どうしちゃったんだろう?」
あかりはここ数日の浩之の態度を思い出して不安になったようだ。
そんな様子を見た綾香はあかりに声をかけた。
「ねえ、あかり。何か心当たりがあるようね。」
「ここじゃゆっくり話もできないから食事でもしながらお話しない?」
綾香の誘いにあかりも同意し、二人は学生食堂へ向かった。
この大学の食堂は出資者が来栖川なせいか、値段に比べかなり量も味も良いと評判であった。
食堂へ入ると綾香はあかりに声をかけた。
「あかりは何を食べる?」
その問いに、
「あっ、私お弁当を持ってきてるから。」
「そう、じゃあ私は何か買ってくるから席をお願いね。」
そういって食事を買いにいこうとする綾香をあかりは呼び止めた。
「来栖川さん、もし良かったら浩之ちゃんの分のお弁当があるんだけど食べませんか?」
その言葉を聞いて綾香はふとからかいたくなった。
「あいつったら、愛妻弁当があるのに休んだのね。」
その言葉を聞いて頬を赤くするあかり。
「そ、そんな、そういうんじゃなありませんから、私が勝手に作って持ってきただけだし、でも、そうなったらゴニョゴニョ…。」
だんだんと声が小さくなっていく、綾香もそれには気付いていたがあえて無視してあかりに言った。
「冗談よ、冗談。でも、折角だから御馳走になろうかしら。」
まったく、あかりも浩之も相変わらずみたいね。そんなことをふと考えてしまう綾香であった。
あとがき
来栖川綾香を出してしまいました。
彼女が浩之と同じ学部に進んだのはやはりセリオとの関係があったからです。
そのことに関しては追々述べていきたいと思ってます。(できるかな?(^^;))
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