今日はマルチちゃんに用があって早く来た私…。

 でも、マルチちゃんから頼まれることがあるなんて思わなかった…。

 それは…。


 マルチの心 −第三十七話−


「おい、一体何を話したんだよ。」
「ふふ、内緒。」

 あかりは軽く微笑むとそのまま小走りに走り出す。

「お、おい、あかり。」

 浩之は思わずそのあとを追いかける。
 数メートル先を走っていたあかりが急に立ち止まると浩之の方へ向いた。
 浩之も一度足を止めるとゆっくりあかりの方へ歩き出す。

「そうだ、浩之ちゃんに一つ報告しなくちゃいけないことがあったんだ。」

 あかりはニコニコしながらそう言う。

「なんだよ、その報告って。」
「あのね、お弁当の話。」
「へっ?」

 急に弁当の話がでて浩之は戸惑った。

「ふふ、今朝ねぇ、マルチちゃんと話をしたときに決めたんだ。」

 その言葉を聞いて浩之は昨日のマルチとの会話を思い出した。
『そう言えば弁当を作りたいと言っていたな…。』
 そしてあかりに会ったらそのことを相談したいとも言っていた。
 そのチャンスはその翌日に、それも本人が朝からやって来たことによっていとも簡単に達成された。

「それでどうなったんだ?」

 浩之がそう訊ねるとあかりは更に嬉しそうな顔になって報告した。

「うん、私が迎えに来るときは私が作って、浩之ちゃんが一人で来るときはマルチちゃんが作ることにしたの。」
「でも、今日は私とマルチちゃんで作ったんだよ。だからお昼に期待してね。」
「ほら、早く行かないと遅刻しちゃうよ。」

 あかりはそういって浩之の手を取るとそのまま走り出した。

「だけどあかり、今日は土曜日だぞ。」

 浩之がそのことを指摘すると、

「いいじゃないの、土曜日だって。それとも私とマルチちゃんが作ったお弁当を食べたくないの?」

 そう言われてしまうと何も言えない浩之であった。
 しかし今日のあかりは、いや昨日から妙にハイテンションでおかしいと浩之は思った。
 そしてその原因は判らずじまいであった。


 浩之があかりと別れ、教室にはいると綾香は既に来ていた。
 浩之は綾香に挨拶をする。そして、

「昨日、先輩と一緒に昼飯を食ったんだ。」

 そう言って話を切りだした。

「あらそう、それは良かったわね。」

 綾香は素っ気なく答えた。どうやらまだ不機嫌のようだ。

「感情表現が乏しいからといって心が無いわけじゃないことは分かったよ。」

 浩之のその言葉を聞いて綾香は浩之の顔をまじまじと見た。

「へぇ〜、私の言ったことを分かってくれたんだ。」

 そこにはなにやらうれしさが込められているように感じられた。

「でも、それって姉さんを見て気が付いたんでしょ。」

 綾香はそう言うと意地悪く笑った。
 浩之は図星を突かれて内心うろたえてしまったが、

「あ、ああ。実はその通りだよ。」

 素直にそれを認めた。

「でもな、メイドロボに心があるかどうかはまだ分からないんだ。」

 その言葉に綾香が何か言い返そうとしたが、浩之はそのまま遮るように続けた。

「もしかするとあるのかもしれないし、ないのかも知れない。」

 そして昨日からのマルチの変化を綾香に告げると、

「なるほどね。でも、その変化って浩之にとって悪くはないんでしょ。」

 話を聞いた綾香はそう浩之に訊ねる。

「うーん、それが俺にもまだ良く判らなくって。」

 浩之は曖昧に答えるのみだった。

「なによ、それ?」

 その時授業開始のチャイムが鳴った。


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あとがき
 冬コミ絡みでなかなか書く時間が取れませんでした。(^^;)
 おかげでとうとう年を越してしまいました。
 いつもの年なら正月休みに時間が持てるのですが、1/2に当直があったために休んだ気がしません。
 結構、やらなければいけないことが多くて時間が足りないためしばらくは更新が遅れるかも知れません。
 また、このSSの構成自体も色々考えているせいもあり、筆が進まなくなっています。
 筋の方がはっきりすればまたコンスタントに書けるようになると思いますが、今しばらくはこの調子が続きそうです。(^^;)


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