ロボットに心があるのか。

 それは造物主である人間だって分からないこと。

 心とは何か?

 それを定義するのは難しい…。


 マルチの心 −第三十八話−


 一時限目の授業が終わると綾香はすっと消えていった。
 綾香になにか言われるだろうと思った浩之は当てが外れた。
 結局綾香が戻ってきたのは休み時間終了間際であった。そしてそのまま浩之に声を掛けることなく席に着いた。

 今日は土曜日なので授業は午前中で終了する。つまりこの二時限目が終われば晴れて自由の身になるわけだ。
そのせいか授業を受けている学生の態度も何かそわそわしているように感じる。
 浮ついた雰囲気が支配する二時限目が終了すると週末をどう楽しもうかという学生たちは我先にと教室を出ていく。
 浩之はこのあとあかりと共に昼食を取る予定であるから、それらの学生を後目に自分のペースで片付けを行っていた。

 その時浩之の前を影が差した。顔を上げるとそこには綾香が立っていた。
 その様子はあまり良いとは思えなかったが、完全に怒っているわけでもなさそうだった。

「浩之、明日時間ある?」

 綾香は突然そう言ってきた。

「えっ、あ、ああ、今のところは予定はないけど。」

 綾香の問い掛けに浩之はそう答える。

「それなら、明日の午後三時。浩之の近くの公園に来てくれる。」
「それってどういうことだよ。」
「いいから、約束よ。それじゃあね。」

 自分のいいたいことを言い終えると綾香はそのまま教室の外へでていった。

「あっ、おい!」

 浩之が呼び止めようと廊下に出たとき既に綾香の姿はなかった。

「浩之…ちゃん、どうしたの?」

 浩之の後ろからあかりが声を掛ける。
 その声に振り返ると、

「いや、なんでもない。」

 浩之は一言そう言うとあかりに向き直った。

「でも今、来栖川さんが急にでて来たと思ったら浩之ちゃんが後を追いかけてでてきたから。」
「本当になんでもないんだ。あかりが心配するようなことはないよ。」
「そ、そう…。」

 気にならないといったら嘘になる。しかし、浩之がそういうのであれば納得するしかなかった。
そう、例えここで尋ねたとしても浩之にその気がなければ答えは返ってこないのだから。
  浩之としても綾香のあの態度が気になるところであったが、かといってあかりを置いて追いかけていくわけにいかない。
 まあ、明日になれば分かるかと気持ちを切り替える。

「それより、昼飯の誘いにきたんだろ。で、どこで食べるんだ?」

 浩之にそう言われてしまえばあかりも切り替えざるを得ない。

「そうだね、今日は天気もいいし、学校もこれで終わりだから公園か何処かで食べない?」
「公園か。」
「ねえ、浩之ちゃんちの近くにある公園はどうかな?」

 綾香とのやりとりででてきた公園のことがあかりの口からでて、思わず浩之はどきりとする。
 だが、よくよく考えてみれば綾香とのことを聞かれていたわけではないし、関係ないことに気が付いた浩之は
その提案をそのまま受け入れることにした。

 二人はそのまま大学を出ると公園へ向かった。
 その道すがらあかりは浩之に色々話しかけてくる。
 浩之も綾香とのやりとりを忘れたかのようにいつも調子であかりと話した。

 公園は新緑の季節を迎え、冬の寂しさを忘れたかのようにほのぼのとしていた。
 天候も上々で、気温もやや暑いくらいであった。そのせいか公園は散歩する人やベンチでひなたぼっこをしている人、
子供を連れて井戸端会議に花を咲かせている主婦達等、それなりににぎわっていた。

「あそこで食べようよ。」

 あかりがそういって指さしたのは公園の噴水近くのベンチであった。
 二人がそのベンチに腰掛けるとあかりは早速お弁当をベンチの上に広げはじめた。
 お握りの入ったボックスとおかずの入ったボックスの蓋が開けられる。おかずの入ったボックスには色とりどりのおかずが入っていた。

「さ、どれが私ので、どれがマルチちゃんが作ったおかずか当ててください。」

 ニコニコ笑いながらあかりはおかずの入ったボックスを差し出した。

「お、おい、そんなこと急にいわれても…。」

 戸惑いながらもおかずに手をつける浩之だった。


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あとがき
 半年近く放ってしまいました。(^^;)
 それに関してお詫びいたします。 m(_ _)m
 この先も更新は遅くなりそうです。いや、はっきりいっていまSSを書く気が完全になくなってまして、今回もやっとこさ書き上げたというのが
正直なところです。
 とはいえ、時間はかかっても最後まで続けるつもりでおりますので、ゆるゆるとお待ちください。


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