浩之さんは私といるとつらいのだろうか?
マスターが喜んでくれることが私たちにとって一番重要なこと。
それができない私はもっと喜んで貰うように努力しなければいけない。
そのためには…。
マルチの心 −第三十三話−
マルチが浩之を起こしに来たのはいつもより一時間遅かった。
なぜなら今日は二時限目より出席すればよいからであった。
つまり、今日はあかりが迎えに来ることはない。
マルチが浩之に声を掛けたとき浩之は既に目覚めていた。
そしてマルチの呼びかけに「すぐに行く。」と答えると服を着替え始めた。
リビングに浩之が入ってくるとマルチは、
「お早うございます。」
と、声を掛けた。気のせいか昨日より声が大きいように浩之には感じたれた。
「ああ、お早う。」
浩之も返事を返すがやや精彩に欠ける。
「すぐにご飯をよそいますのでお待ちください。」
マルチはそう言うと炊飯器に向かって歩き出す。
その時、突然マルチが足を滑らせバランスを崩す。
「は、はわ〜。」
それを見て浩之はすぐに動いた。
転ぶ直前にマルチを後ろから支えようとするが、勢いが強く浩之もそのまま倒れてしまう。
ずで〜〜ん。
リビングに二人の倒れる音が大きく響いた。
「怪我はないか、マルチ?」
ロボットがこれくらいで怪我するとは思えないが、ついそう言ってしまう浩之であった。
「はい、大丈夫です。それより浩之さんこそ大事ありませんか?」
マルチのその言葉を聞いて「あれっ?」と浩之は思った。
マルチが浩之から離れて立ち上がる。そしてまだ転んでいる浩之に、
「私が転びそうになったために浩之さんにご迷惑をおかけしまして申し訳ありません。」
そう言って謝罪すると浩之に手を差し出してきた。
「ああっ」
浩之はそう言うがマルチの変化に戸惑ってしまい、そのままマルチの顔を見つめている。
「どうかされましたか?」
マルチが再び声を掛ける。浩之はマルチの手を取り立ち上がる。
「いや、なんでもない。」
そう言ってその場を繕うと、
「それより、メシをよそってくれ。」
無理矢理話を元に戻した。
食事を食べながら浩之はマルチの変化について考えていた。
昨日までのマルチであれば、『私はロボットですから大丈夫です。』と言ってくると思っていた。それに転びそうになったときに『は、はわ〜。』と言ったのも驚きであった。 マルチは浩之の斜め後ろに立って浩之を見つめている。それはメイドロボとしてユーザーに対し失礼にならないようにするためであった。
浩之の茶碗が空になるとすかさず声を掛ける。
「おかわりはいかがでしょうか?」
浩之は「ああ」と答えるとおかわりを貰う。
何故か知らないが浩之はこのマルチの変化を嬉しく思っていた。
食事が終わると、
「ごちそうさま。うまかったぞ、マルチ。」
そう言ってマルチの頭を撫でた。
そして撫で始めてふと以前マルチの頭を撫でた時きょとんとしていたのを思い出した。
しかし、今回マルチはなにも言わずに撫でられていた。
これも浩之にとり驚きだった。
一体何が起こったのだろう?そう思う浩之だった。
しばらく、浩之に撫でられていたマルチであったが、突然浩之に声を掛けた。
「あの、そろそろ出かけるお時間ですが。」
その言葉に時計を確認すると確かにそろそろ出かけないといけない時間だった。
「よし、名残惜しいがそろそろ行かないといけないな。」
そう言って浩之は自室へ荷物を取りに行く。
「あとのことは頼んだぞ。」
浩之はマルチの見送りを受けるとそのまま学校へ向かった。
あとがき
色々やることが多くてSSを書くことがままなりません。(/_;)
ホームページの引っ越しも早いところ何とかしたいと思っているんですが、こっちもなかなか良いところが見つからなくて。
今しばらくはこんな感じが続きそうですね。(滅)
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