浩之の真面目な姿って初めて見たような気がする。
普段も真面目なんだけど、でもそれをわざとだらけているように見せているだけ。
今日の浩之にはそれは見えなかった。
それだけにいったい何の話なのかしら?
マルチの心 −三十一話−
昼休みになって浩之と綾香は学生食堂へと足を運んだ。
いつもなら浩之はあかりを誘うのだが今回は綾香と二人きりで話したかったせいもあり、登校する際にあかりには話しておいていた。
食堂に到着すると綾香は浩之に何を食べるか聞いてきた。
「俺はカツカレーにするか。」
「じゃあ、私もそれでいいわ。では、浩之お願いね。」
そういうと浩之のそばから離れようとする。
「おい、俺が買ってくるのか?」
「そうよ、か弱いレディに重い物を持たせるつもり?」
綾香はあっさりと言い放つ。
「良く言うよ。普通の男じゃ歯が立たないほど強いくせに。」
「あら、それは見解の相違ね。私はか弱いレディだと思っているわよ。」
「それに席を取っておかないといけないでしょ。」
綾香の言う通り食堂は学生達でだんだんと混んできている。
確かに一人は席を確保しに行った方が良いと浩之は考えた。
それに元々綾香の分も持ってくるつもりであったので、
「判った。席の方は任せたぞ。」
言うが早いか食券を買うと受け渡し場所へと消えていった。
綾香が席を確保し、椅子に腰掛けるとほぼ同時に浩之が人混みの中からお盆を持ってでてくるのが見えた。
綾香は浩之が判るようにと手を振って合図をする。
綾香がどこにいるのか捜していた浩之はその合図を目にすると軽くうなずき、綾香の元へ歩き出す。
「お待たせいたしました。お嬢様。」
浩之は綾香の前にカツカレーの皿を置くと慇懃に言った。
「浩之がそう言っても格好つかないわよ。」
綾香は笑いながら言う。
「へいへい、どうせそうでしょうとも。」
浩之は軽く肩をすくめると綾香の対面に移動して座った。
綾香は浩之が座るのを確認すると話を切り出してきた。
「ところで私に聞きたい事ってなに?」
いつもの浩之であればここで綾香の話に乗るところなのだが、これだと綾香にイニシアチブを握られることになる。それを嫌った浩之はこう綾香に返した。
「それは食事のあとにしようぜ。」
「お互い腹も空いていることだし、まずは食欲を満たすことからな。」
その言葉に綾香もうなずく。
綾香自身も実はお腹がぺこぺこであった。
しばらく二人は黙々と食事を続けた。
その沈黙を破ったのは浩之であった。
「なあ、綾香。お前は普段昼食はどうしているんだ?」
「先輩は高校時代いつもお弁当を持ってきていたけど。」
綾香も食べるのを一時やめて浩之に対応する。
「私も高校時代はお弁当だったわよ。」
「でも、大学に入ってからはお弁当だったり学食で食べたり色々かな。」
それがとても嬉しいというのが綾香の言葉からも感じられた。
「ふーん、じゃあ、先輩もそうなのか?」
「姉さんは相変わらずお弁当ね。第一、姉さんが学食でご飯を買えると思う?」
綾香はいらずらっ子のように笑うと浩之にそう答えた。
「確かにな。先輩がこの雑踏の中でご飯を買えるとは思えないな。」
「じゃあ、先輩はここの飯は食ったことがないのか。」
「そんなことはないわよ。私と一緒にここで食べたことがあるし。」
「でもねぇ、ここのメニューって普段自宅で食べたことのない物ばかりだから何を頼んで良いのか判らなくってねぇ。」
その時のことを思い出したのか綾香はおかしそうに話す。
「先輩らしいな。」
浩之も思わず納得してしまった。
「で、仕方がないから私が選んであげたんだけどだいぶビックリしていたみたい。」
「一体何を頼んだんだ?」
浩之は芹香が一体何を食べたのか考えてみたが、よく判らなかった。
「ふふっ、なんだと思う?」
「判らないから聞いているんだけどな。」
降参したというのを体で示すと綾香はニコニコしながら教えてくれた。
「実はね、牛丼にしたのよ。」
「そうしたら姉さんったら肉だけ先に食べちゃってご飯だけ残っちゃったの。」
来栖川家でこういったど丼物を食べる機会など全くないため珍しいだろうと思って綾香は選んだのだったが、芹香にしてみれば初めて食べる丼物でありその食べ方までは判らなかったのであった。
そのため肉だけを先に食べてしまい、ご飯が残ってしまったのであった。
もっともご飯は牛丼の汁で味が付いていたからまったく食べられないわけではなかったが元々小食の芹香は結局全て食べることはできなかった。
「お前ねぇ、それだったら教えてやればいいじゃないか。」
浩之が呆れて言うと、
「しょうがないじゃない、私だってまさかそんな食べ方をするとは思っていなかったんだから。」
「それに気が付いたらそうなっていたのよ。」
「やれやれ、先輩も災難だったな。」
「あら、それだったら今度は浩之が誘ってあげたら?姉さん喜ぶわよ。」
再びいたずらっ子の目をして綾香は浩之に言う。
「ああ、今度機会があったらな。」
「あら、やっぱり浩之は姉さんに気があるのね。」
その綾香の言葉に浩之はつい反応してします。
「そ、そんなんじゃねぇよ。」
「顔を赤くしていっても説得力がないわよ。」
そういったやりとりがややしばらく続いた。
二人の食事が済み、コップの水を飲み干すと浩之が綾香に話しかける。
「で、話を元に戻すけどお前に聞きたいことがあるんだ。」
あとがき
相変わらず原稿書きに苦労しています。(^^;)
とはいえ、今回はちょっと書きやすかったですね。
どうも、このところ一人称で書くことが多かったせいか三人称で書く場合の良い点をつくづく感じました。
どうやら私の場合、三人称で書く方が書きやすい様です。
なお、サーバートラブルでここ数日アクセスできない状態が続いてましたが、なんとか復旧させました。
これがなければこれも数日前にはアップできたんですけどね。
ただ、今回の件に関しては私もちょっと考えることがあって引っ越したばかりではありますが、再び引っ越そうと考えてます。
短期間に何度も引っ越して申し訳ありませんが、やはり安定したところの方がお互いにとって良いと考えますので。
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