あんな夢を見たということはやっぱり俺はあのマルチを忘れられないのか。

 多分そうなんだろうな。

 でも、このままでは…。


 マルチの心 −第三十話−


 大学へ向かう道を歩きながら浩之は今朝の夢のことを思い出していた。
 そして夢は時にその願望を映し出す鏡であることも。
 しかしながらそれは叶わぬ願いであることは浩之も十分理解している。
 なのに、心の底ではあのマルチを望んでいた。

 その気持ちを押し隠さなくてはいけないのかと考えると気分爽快な朝も吹き飛んで浩之は憂鬱になるのだった。

「……ちゃん。」
「…ゆきちゃん。」
「浩之ちゃん。」

 その思考を止めたのはあかりだった。
 あかりは浩之が何か考えているのに気付いていた。そしてそれは余りよい思考でないのも浩之の顔を見ているだけで判った。
 だから、それをやめさせようと声を掛けたのだった。

「あ、ああ、わりぃ。で、なんの用だ?」
「なんの用だじゃないよ。さっきから呼んでいるのに全然気付いてくれないんだもん。」
 そういうと少し拗ねた態度を見せる。

「ああ、わりぃ、ちょっと考え事をしていたからな。」
「ところであかり。今朝はマルチと何を話していたんだ?」

 その考え事に対して聞かれたくないがため、浩之はあかりに質問をぶつけることで話題の転換を図った。

「えっ、マルチちゃんとは今朝のご飯のおかずのことを話していただけだよ。」
「あっ、あとマルチちゃんがどんなお料理をできるのか聞いていたの。」

 浩之の料理人と自認しているあかりにはやはりマルチの作る料理のことは気になるのだろう。特に昨夜食べた卵焼きのできにはあかりとしても刮目せずにはいられなかった。

「そうか、あかりらしいな。」

 あかりの返事を聞くと浩之はそういって微笑んだ。
 その浩之の腕にあかりの腕がそっと絡んでくる。

「お、おい、あかり。」

 その状況に思わず浩之は焦った。

「ふふ、いいじゃない、二人は恋人同士なんだから。」

 あかりの答えに浩之は顔を赤くしながらも納得するのであった。
 そしてそのまま二人は学校へと向かった。


 浩之があかりと別れ、教室へはいると既に綾香は席について授業の準備を始めていた。 浩之はその姿を見ると綾香の隣へと向かった。

「おはよう、綾香。」

 その声に気付いて綾香が浩之の方へ顔を向ける。

「おっは〜、浩之。なに?珍しいじゃないの、あなたの方から私のところへ来るなんて。」

 綾香がそういうのも無理もなかった。
 仲がよいとは言ってもどちらかといえば綾香の方から浩之に声を掛けることが多かったからだ。そして綾香のペースに浩之が巻き込まれるのが普通であった。
 浩之もそれが嫌いじゃないから綾香に付き合っていた。
 だが、今日はそういうじゃれあいをしたいために綾香のところへ来たわけではなかった。
 そう、浩之は昨日綾香の言った言葉の意味を確認したくて綾香のところへ来たのだった。

「まあな、今日はお前に用があったからな。」

 浩之がそう言うと、

「あっ、ひど〜い、じゃあ用がなければあたしには近寄りたくないの?こんな美少女なのに。」

 他の女性が言ったら嫌みに感じるかも知れないが、綾香が言うとそんな物はまったく感じられない。

「美少女はともかく、大体がお前の方から俺に声を掛けることが多いだけのことだろ。」
 既に浩之は綾香のペースに巻き込まれていた。
 結局、話を進める暇もなく授業開始のチャイムが鳴り、話はたち切れになってしまった。

 一時限目が終了し、講師が教室を出ていくと同時に浩之は再び綾香に声を掛けた。

「綾香、あとで話があるんだけど、昼休み空いてるか?」

 綾香に茶々入れされるのを防ぐために浩之は必要事項だけ綾香に告げた。

「あら、愛の告白でもしてくれるの?」
「でも、浩之にはあかりがいるんだからダメよ。」

 綾香は相変わらずの調子で答える。

「するかっ!」

 綾香の挑発に浩之はまんまと乗ってしまう。
 それに気が付いて気持ちを切り替えると綾香に再び告げた。

「実はお前に聞きたいことがあるんだ。」

 浩之の真剣な様子に綾香も気付いたようで綾香も真面目に訊ねた。

「そんなまじめな顔をしなくてもいいわよ。で、聞きたい事ってなに?」
「それは昼休みに話す。」

 浩之はそう言うと二時限目の準備を始めた。


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あとがき
 冬コミ原稿がつまり気味な煽りを食らってこっちもペースが落ちています。(^^;)
 プチセリオの3話も早くあげたいのだけど、それを書くだけの余裕がなくてなぁ。(/_;)


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