私が作った料理はどうやらあかりさんにはお気に召して貰えたらしい。

 でも、浩之さんはどうなんだろう?


 マルチの心 −第二十五話−


 食事が終わり、浩之とあかりは今でくつろいでいた。
 マルチは夕食の後片付けをしている。
 あかりもマルチと一緒に片付けると言ったのだが、浩之とマルチの両方からやんわりと断られてしまっていた。
 マルチはあかりに手伝って貰うのは申し訳ないと言い、浩之は今はマルチにやらせてやってくれと言った。

 浩之にしてみればマルチとどうやって付き合っていけばよいかまだ分かっていない。
 それゆえマルチがなにをできるのか見極めたいと思っていた。
 あかりも浩之の心情を理解したのか無理に手伝うとまでは言わなかった。

 浩之は居間でお茶を飲みながら今食べた食事のことを考えていた。
 そしてふとあかりを見る。その途端あかりと目が合い、あかりは何故か赤面した。
 何故赤くなるんだ?と浩之は思う。そのとき浩之は昨日起きたことを思い出した。
 マルチのことにかまけていたため失念していたが、昨日二人は恋人同士になったばかりであった。本来ならこれは大きな出来事であることは
間違いない。
にもかかわらずそれを忘れていたのはひとえにマルチというそれ以上に大きな事があったせいだった。

 いや、浩之にしてみればあかりと恋人同士になったこと自体は大きな事ではあったが、だからといって今までとどこが変わったのかと思う気持ちが
無意識にあった。それだけ二人の関係は自然であったということだろう。しかし、それを忘れていたのは事実であり、あかりを放っておいてしまったと
思った途端、浩之は申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

「なあ、あかり。今日は俺の我が侭に付き合わせてしまって悪かったな。」

 その罪悪感から浩之はあかりに対し浩之なりの謝罪の言葉を告げる。

「ううん、そんなことはないよ。マルチちゃんの洋服を選ぶのは楽しかったし、料理も美味しかったし。」

 あかりはそういったが浩之とてあかりとの付き合いは長い。
 あかりがやや寂しい思いをしていたことは雰囲気から察することができた。

「あかり、ありがとうな。」

 浩之はそう言うとあかりを抱きしめた。

「あっ!」

 あかりは一言声を漏らすとそのまま浩之の温もりを更に感じようと自らも浩之に抱きついていった。
 そしてそれだけであかりの心は満たされていくのであった。

 浩之はあかりを抱きしめつつも冷静に考えていた。特に今日はこれ以上のことをするのは拙いと思っていた。
 もちろん健全な男子であるからそうしたい気持ちはある。
 しかし、恋人同士になったからといってすぐに肉欲に溺れるほど浩之は弱くもなかった。 実際のところ昨日は成り行きであかりを抱いてしまったが、
その後冷静になって考えてみるとあかりに対して申し訳ない気分になるのであった。

 あかりのことは好きだ。
 しかしその好きは昨日までLikeであって、Loveではなかった。
 そして今それはLoveになっているが、それもこれも昨日のことがあったからに他ならない。
 それは「男の責任」という気持ちがそうさせていた。
 浩之はあかりが自分に対してLoveであったことは以前より気が付いていた。
 で、なければ甲斐甲斐しく世話することはいくら幼なじみだと言っても無理である。
 浩之はそれに対してこれまで自分の気持ちをはっきりさせることはなかった。
 それは高校時代の仲良し四人組の枠を壊したくないという気持ちがあったからだった。
 あかりもそれが分かっていただけに浩之がはっきりした態度をとらなくても気にならなかった。いや、気にしない振りをしていただけかも知れない。
 同時にそれによって四人の関係が壊れることも怖れていた。

 だが、今その枠は崩れてしまっている。
 それゆえあかりに甘えてしまい、あかりもそれを受け入れたことは間違いのないところだった。

 そして二人ともそれに戸惑いを覚えているのも事実だった。
 特に浩之は昨日から色々なことが起こりすぎていた。あかりにしても今まで望んでいたことがこんなに簡単に手に入るとは思っていなかった。
 そこに一種の心の空白が生まれていた。その空白にマルチという出来事が入り込んでしまったため、二人ともその事実を忘れていたのであった。
 ただ、あかりの方がその出来事が小さかったために二人きりになった今、それを思い出したのだった。

 その時浩之が一つだけはっきりと認識していたのは、これから先あかりを恋人として大事にしていこうということだった。

 浩之はあかりをそっと引き離すと自分の脇に引き寄せ、そしてその唇にそっとキスをした。
 それはフレンチキスというべき軽いキスであった。

 唇が離れたときあかりは顔を真っ赤にしていた。
 だが、その顔には幸せいっぱいという文字が顕れていた。

「ねぇ、浩之ちゃん…。」

 それは多分、その先もOKというサインだろう。
 あかりにしてみれば浩之が望むのであればそれを受け入れるつもりでいた。

 けれども、浩之は、

「いや、今はこれで十分だ。昨日の今日だとお前もつらいんじゃないか?」

 そういってあかりをいたわる。
 それは以前読んだ雑誌に慣れない頃はつらいという記事があったのを思いだしたからだった。
 あかりは更に顔を赤くしながらも浩之の心遣いに感謝し、

「うん、ありがと…。」

 と小さくつぶやいた。

「じゃあ、そろそろ私は帰るね。」

 あかりはそういうと立ち上がった。

「じゃあ、玄関まで送るよ。」

 二人は一緒になって玄関まで歩いていく。

「それじゃあ、また明日ね。」

 そういってでていこうとするあかりを浩之は呼び止めた。

「なに?」

 あかりが訊ねると浩之はもう一度あかりにキスをした。

「お休みのキスな。」

 浩之は軽くウインクするとあかりを送り出した。
 あかりは今の幸せをかみしめながら家路についた。

 そしてあまりのうれしさにその途中で涙が溢れてくるのを抑えることができなかった。


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あとがき
 ちょっと今回はあかりと浩之中心の話になってしまいました。
 最近は何も考えずに書き出すことにしているせいか勝手に話が進んでいきます、いや、進んでいるんじゃなくて止まっているように感じます。(^^;)
 本当ならもうすこし話が進んでいる筈なんですが、何故か遅々として進まないんですよねぇ。
 まあ、私としては今それが必要だと思うから書いていると思ってます。
 しかし、書いている人間がこんな事を言ってはいけないと思うのですが、一体どうなるんだろうなぁ?というのが現在の正直な気持ちです。(爆)


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