浩之さんが洋服を買ってきてくれた。
その気持ちに応えるようにしないと…。
マルチの心−第二十三話−
夕食の準備のためにマルチが二階から降りてきたとき、マルチは浩之たちが買ってきた服に着替えていた。
そして台所にはいると材料を仕分けをはじめる。
その姿を居間から見ていた浩之とあかりは買ってきて正解だったと感じた。
「ねえ、浩之ちゃん。買ってきて良かったね。」
にっこり笑ってあかりは浩之に話しかけた。
「ああ、そうだな。」
「喜んでくれたかどうかは分からなかったけど、すぐに着替えてくれたんだから嫌だったわけではないようだし。」
「うん、それでいいじゃない。」
そういって二人はうなずきあう。
そこへマルチが顔を出した。
「すみません、浩之さん。」
淡いブルーのTシャツにライトブラウンのキュロットパンツをはいたマルチはそれだけでだいぶイメージが異なっていた。
その姿に浩之は満足感を覚えた。
同時にその姿に目を奪われていたため、マルチの問いかけに気付くのが遅れた。
「すみません、浩之さん。」
再びマルチが声をかける。
「あ、ああ、何だ、マルチ。」
マルチの問いかけに慌てて浩之は応える。
「夕食なのですが、あかりさんの分も作った方が良いでしょうか?」
それに浩之が答えようとする前にあかりが答えた。
「あっ、私の分はいいよ。マルチちゃん。」
「今日はもう帰るから。」
しかしながら、浩之はそれを拒否した。
「いや、あかり。今日はうちで飯を食ってけ。」
「ええっ、でも…。」
「いいから。今日はお前に世話をかけたしな。」
「と、言うわけだ、二人分頼むぜ。」
マルチはその言葉を聞くと
「かしこまりました。」
そういって一礼すると台所へ戻っていった。
強制的に食事をする羽目になったあかりは浩之の顔を見た。
その視線に気付いた浩之もあかりに顔を向けると話しだした。
「無理に付き合わせて悪いな。」
「ううん、そんなことはないけど。でも、何で?」
浩之が強引に人を巻き込むことは普段まったくといってなかった。
時に冗談で行うことはあってもそれは冗談の域を外れることはない。
しかし、今回はあかりの意向を無視したのは間違いなかった。
「お前にマルチの料理を食べて貰いたかったからなんだ。」
「俺も今朝、あいつの料理を食べたけど、それは特に技術がどうのというおかずじゃなかったし…。」
「昼間にマルチに料理を教えて欲しいと頼んだけど、そのためにも食べてみて欲しかったんだ。」
浩之が引き留めた理由を話す。
それを聞いてあかりも納得した。
「じゃあ、今からでも教えてあげなきゃ。」
あかりはそういうと台所へ行こうとした。
だが、浩之はそれを引き留めた。
止められたあかりは怪訝な顔をして浩之を見た。
「どうして止めるの?浩之ちゃん。」
あかりにしてみればここで止められるとは思っていなかったから余計だ。
「今回は手伝わないでくれ。」
その言葉に疑問を覚えるあかり。
「なんで?」
「ああ、お前が教えてくれるならそれなりのものを作ってくれるだろうけど、俺としてはマルチの実力を知りたいんだよ。」
浩之にしてみれば未だマルチの能力は未知数な部分が多い。
いや、本格的に起動したのは昨夜なのだからお互い何もわかっていないというのが正しいだろう。
それゆえ、何ができて、何ができないのか把握したいと浩之は思っていた。
そのためにはしばらくはマルチの自由にさせようと考えていた。
もし、ここであかりがマルチに料理を教えることになるとすなわち干渉することになる。
それによってどんな影響を与えるか分からなかったからであった。
更に料理を普段から作っているあかりならマルチの作る料理の長所・短所が分かると思ったからでもあった。
そういったことを浩之はあかりに説明した。
あかりは藤田浩之研究家の名に恥じず、浩之が何を考えてそういったか理解した。
「分かったよ、浩之ちゃん。」
「じゃあ、私がマルチちゃんに料理を教えるのはしばらくしてからだね。」
二人が話をしている頃マルチはそれと知らず料理を作り続けていた。
あとがき
今週は仕事が忙しくて書く暇が全然とれませんでした。(/_;)
来月になれば少しは落ち着くと思うんですけどね。
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