「そう、彼女たちにも心はあると思うわ。」

 これは綾香があの時話した言葉。

 でも、俺はまだ見つけていない。

 果たして見つかるのだろうか…?


マルチの心 −第十九話−


 自動ドアが開く。メイド服を着て、手には買い物かごを持ったマルチは店内に入っていった。

 中に入ると同時にマルチは店内を見回した。
 その姿は誰かを捜しているようだった。

 見回していたマルチの視線がある一点で止まる。その先には一人の人物が立っていた。その人物に向かってマルチは歩き出す。
すると相手もマルチに気付いたらしく、歩いてくるマルチに目を向けた。
 お互いの距離が2mになったところでマルチは立ち止まりしばらく見つめ合ったのち、軽く会釈をするとその場から離れた。
 相手の人物も会釈を返すとそのまま反対方向へ歩いていった。

 その姿は町中で顔見知りと出会ったときの様子に酷似していた。
 しかしながら、起動したばかりのマルチに知り合いはいない。そしてマルチ自身もその相手とは一度も面識がなかった。
 それでも、会釈したのはそれなりの理由があった。
 マルチが挨拶した相手は普通の人とはちょっと違っていた。その人物は緑色の髪で耳には白色の耳あてがついていた。
 そう、彼女は自分の同型機に挨拶したのであった。

 マルチはしばらく辺りを見回しながら店内を歩き回っていた。
 それは商品を探しているのではなく、最初と同じように誰かを捜しているという風情であった。
 そしてマルチ型、セリオ型のメイドロボに出会うたびに立ち止まり、そして会釈をしては再び誰かを捜すように店内を見回すことを繰り返していた。


 その頃、浩之たちは目的のメイドロボット専用衣料品店に到着していた。
 ウインドウにはマルチ型、セリオ型と思われるマネキンにいま一番売れていると思われる服を着せてあった。
 それはこれから暑くなる季節に向けて涼やかな印象を与える姿であった。
 浩之はそれを見ると普通の衣料品店と何ら変わらないなと思った。
 浩之と共にそれを見ていたあかりは浩之に声をかけた。

「ねえ、浩之ちゃん。この洋服をマルチちゃんに着せるのも悪くないかもね。」
「でも、あのシャツの柄がクマだったらもっと可愛くなるにね。」
 それを聞いて浩之は、

「それはお前の趣味だろっ!」
 と、ツッコンだ。

「で、でも、可愛いと思うんだけどなぁ。」
「クマ好きはお前一人で十分だ。」
「ううっ、可愛いのにぃ。」
 浩之にそう言われてしょぼんとするあかりであった。

「それよりも早く中へ入ろうぜ。」
 浩之はそのまま入り口へと向かう。

「あっ、待ってよ。」
 あかりはそう言うと浩之の後を追った。

 店内に入ると静かなBGMが流れ、心地よい雰囲気を醸し出していた。
 辺りを見回すとそれなりにお客はいたが混んでいるというほどではなく、女性よりも男性の方が目立った。
 売られている商品は女性が普通に着てもおかしくないものから、ややマニアックと思われる物まで置かれていた。
 さすがにここには過激な衣装は置いてないようだ。
 某電気街にある店ではかなりマニアックで過激な衣装を売っているという噂があったが浩之は話に聞くだけで見たことはまだなかった。

 そのお客に交じって店員の姿も見かける。
 彼女たちはそれぞれ色違いの質素ではあるが、エレガントな雰囲気を持つメイド服を身につけていた。
 そしてその耳元には白く輝く耳あてがついていた。
 どうやら、店内の接客は彼女たちが行っているらしい。
 レジを見るとそこにはスーツを着た女性が一人。こちらは耳あてを付けておらず、どうやらこの店の店長のようだ。

 店員として働いているメイドロボは全部で3体いた。
 セリオタイプが1体にマルチタイプが2体である。
 マルチタイプの1体は背広を着たサラリーマンらしき男性と言葉を交わしている。
 どうやら、彼が買ったメイドロボもマルチタイプらしくいくつかの服をマルチの前に持ってきては確認していた。

「浩之ちゃん、どんな服を買ってあげるの?」

 その光景を見ていた浩之にあかりが声をかけてきた。

「うーん、できればメイドロボっぽくないのが良いと思うんだけど、特には決めてないぞ。」
「だからこそお前に来てもらったんだけどな。」
「そうだねぇ、どんな服がマルチちゃんには似合うかなぁ?」

 そういってマルチタイプ用の衣装を見るあかりだった。
 浩之もその後ろについて衣装を見てみる。いま見ているのはシャツのところで、一つ向こう側にはワンピースタイプのものがハンガーにぶら下がっている。

 よくよく見回してみるとどうやらメイド用と思えるような衣装と普通の女の子が着るような衣装があることに気が付いた。
 そしてお客はメイド風衣装を見ているものが多かった。

 浩之たちは普通の衣装の方を見ていたが、こちらの方はそれこそ色々な種類があり目移りしやすかった。

「ねぇ、ねぇ。これなんかどうかな?」
 そういってあかりは一着のシャツを浩之に見せた。


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あとがき
 ゲームがあるといけませんねぇ。(^^;)
 どうしてもそっちにかまけてしまって更新がやや遅くなってしまいました。
 まあ、それだけでなく、今回はサンクリの準備もあったせいなんですが。


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