もし、私が浩之ちゃんと結婚したら…。

 当然マルチちゃんと一緒に暮らすことになる。

 でも、私はあのマルチちゃんと仲良くできるだろうか…?


 マルチの心 −第十八話−


「その点に関しては謝るわ。ごめん、浩之。」
 そういって綾香は頭を下げた。

「いや、俺もちょっといいすぎたかもしれねぇしな。」
 浩之も綾香に詫びを入れた。

「でも、どうしてメイドロボを買ったの?」
 やはり疑問に思うのだろう、再び綾香は浩之に訊ねた。
 その問いにしょうがねぇなぁと心の中で思いつつも浩之は答えた。

「やっぱ、男の一人暮らしだとなかなか大変だしな。」
「まあ、それがアパートの一室ならなんとかなるかも知れないけど、一軒家だとどうしても手が回らないし。」
「お前が言うようにロボット工学を志したせいももちろんあるけどな。」

 そういいつつもマルチとの約束に関しては内緒のままにしていた。

「なるほどね、私にはよく分からないけど男性にとってはそうなのかも知れないわね。」
 一応、それで綾香は納得したようだった。

「でもねぇ、浩之。」
「んっ?」
「メイドロボって結構繊細なところがあるから大事にしてあげた方が良いわよ。」

 その言葉に浩之は、

「そりゃそうだろ。精密機器の固まりなんだからさ。」
 といったが、綾香は真剣な顔つきになって言葉を続けた。

「ううん。それもそうなんだけどそれだけじゃないのよ。」
「ユーザーの事を第一に考えているだけに雰囲気とかには敏感なのよ。」
「そう、彼女たちにも心はあると思うわ。」

 その言葉を聞いて浩之は疑問に思うのであった。
 あのマルチに心があるとは思えない。でも、何処かに高校時代に出会ったマルチの心が隠されていると思いたい。そしてそれを見つけだしたい。
 それが浩之がいま考えられることであった。

「あのな、綾香。それって…。」

 綾香にそのことを訊ねようとしたその時、3時限目の始まりを告げるチャイムが廊下に響き渡った。

「あっ、遅れるわよ、浩之。」

 そういうと綾香は走り出していた。
 浩之もそのあとを追ったが、結局それ以上のことを聞くことはできなかった。


 充電を終えたマルチは目を覚ました。
 ケーブルを外し、ノートパソコンを片付けると一階へ下り、清掃道具を持って再び二階へ上がってきた。
 まずは浩之の部屋を掃除し始める。
 部屋の中はそれほど汚れてはいなかったが散らかってはいた。
 まずは雑誌類をまとめると一時的に部屋の外へ置き、掃除機をかける。
 そのあと雑巾で拭き掃除をし、机の上や本棚の整理もその後行った。
 最後にベッドメイクをして終了する。

 他の部屋を含め二階の掃除が終了したとき、既に4時を過ぎていた。
 マルチは清掃道具を片付けると庭に出て洗濯物を取り込み始める。
 取り込んだ洗濯物をたたんでしまうと次に買い物へ行く準備を始めた。
 と、いっても買い物かごと浩之から預かったお金を持つだけだったが。

 家の戸締まりを行い、玄関の鍵をかけると昨夜浩之に教わったスーパーマーケットへ向かった。
 今晩のおかずは浩之のリクエスト通り肉じゃがであったが、同時にマルチの作れる物も欲しいといわれていたので何を作るか考えていた。
 それはマルチにとって難しいことであった。
 なにしろ、起動したばかりで浩之の好みが分からないのが一番大きかった。
 差し当たりマルチには家庭料理の他に和洋中一通りのレシピがあったが、それにしても本格的なものではなかった。
 それは家庭において本格的な料理はあまり好まれないだろうと思われたことと、容量の問題もあった。
 セリオタイプのように必要なときに必要なデータを衛星からダウンロードできるのであれば話は簡単なのだが、マルチタイプにはそれはできない。
 必要に応じてDVD-ROMからデータを取り込むことも可能であるが、これはどちらかといえばプロの領域に当たるものであり、浩之からも安くあげるようにいわれていたので差し当たりその必要性があるとマルチは判断しなかった。それゆえ現在あるデータを利用して夕食の準備を行おうと考えていた。

 そうこうしているうちにマルチはスーパーマーケットに到着する。
 店内にはいると左右を見回し何かを探し始めた。


 その頃浩之はあかりと共に商店街へ向かっていた。
 それは今朝あかりと約束したマルチの衣服を買うためであった。

 あかりはその道すがら浩之に色々話しかけてきた。
 曰く、
「マルチちゃんにどんな洋服を選んであげたら似合うかな。」
「髪の毛が緑だから黄色なんか似合うかもね。」
「でも、動きやすい方が良いよね。」
 等々。

 浩之は我が事のように話すあかりを見てあかりらしいと思う反面、マルチのことを真剣に考えているあかりを愛おしく思うのであった。

 しかしながら、そう思いつつも昼休み終了時に綾香が言った言葉に引っかかりを覚えていた。
 そのことに関して綾香に訊ねようと思っていたが、三時限目の授業がやや長引いたせいもあって綾香とゆっくり話すことができず、四時限目が終わった時、綾香は何か約束があるのか気が付いたときには既に教室を出ていたあとで話しかけることができなかった。


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あとがき
 前回のあとがきでいままで通りにアップできると書きましたが、その後「銀色」をプレイしてしまったためにちょっと遅くなってしまいました。(^^;)
 差し当たり、それが終わったのでアップします。
 ただ、他にもやらなければいけないゲームがあるので更新が少し遅れ気味になるかも知れません。
 でも、最低週に一回はアップしますのでお待ちください。


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