今朝のマルチの料理は普通だった。

 でも、あのマルチの料理は…。

 マルチも経験を積めばあれくらいはできたんだろうな。

 そうだったらどんなに良かったことか…。


 マルチの心 −第十五話−


「ったく、ぶん殴ることはねぇじゃないか。」

 頭を撫でながら浩之は綾香に文句を言った。

「あら、そうされるようなことをいったのは誰だったかしら?」

 ふふんと言って綾香は答える。

「まあまあ、来栖川さんも浩之ちゃんも。」

 間を取り持つようにあかりが声をかける。

 あの後すぐにあかりがやって来て3人は学生食堂へ向かい、なんとか3人が座れる席を確保してすぐの
それぞれの第一声がこれだった。

「だからといってよぉ。」
「あら、いつまでもぐちぐち言うのは男らしくないわよ。」

 その言葉を聞いて浩之は一度は黙り込んだ。

「でもよう、今まで一度も弁当を持ってこなかったらお前がそんなことを言うからさ…。」

 それでも懲りずに浩之は続ける。

「まあ、そういわれると私もちょっとつらいけどね。」
「でも、いいじゃない、私だって女の子なんだから。」

「まあな。」

 そういって浩之は綾香の顔を見た。

「ところで俺の分はあるのか?」

 呆れた顔をして綾香は言った。

「なんで私があんたの分も作ってこなければいけないのよ。」
「今日作ってきたのは昨日、あかりに御馳走になったからそのお礼よ。」

 それを聞いてあかりが口を挟んだ。

「来栖川さん、私は別にいいのに。」
「そうは行かないわよ。美味しいお弁当を御馳走になったんだからそのお礼はしないとね。」
「でも、お前が作ったのがあかり並だとは俺には…。」
 綾香の後ろから怒りのオーラがでているのに気付いた浩之はそれ以上は言わなかった。
「そりゃ、あかりのみたいに美味しくはないでしょうけど、それでも一生懸命作ったんだからね。」
「そうだよ、今のは浩之ちゃんが悪い。」
 あかりと綾香、二人に責められ浩之はなにも言えなかった。

「仕方がねぇな。じゃあ、俺はメシを買ってくるから。」
 気まずい雰囲気から逃げ出そうとして浩之は席を立つ。

「ちょっと待ちなさいよ、浩之。」
「あん?」
「初めはあかりと私の分だけ作ればよいと思ったんだけど、作り慣れてなかったから作り過ぎちゃったのよ。」
 頬を赤く染めながら綾香は浩之に告げる。

「どういうことだ?」
 分かっていながらあえて浩之は綾香に訊ねる。

「だから、あなたが食べる分くらいはあるの。」
 その言葉を聞いて浩之は相好を崩すと、

「そういうことは早く言ってくれよ。」
 と軽い調子で答える。

「でもね、私の作ったお弁当じゃ嫌なんじゃない?」
 にこりと微笑む。
 その攻撃に思わずたじろぐ浩之であった。

「まあ、食べたくないならいいわよ、学食を買ってきても。」

 そういって更に追い打ちをかける。

「ふふ、浩之ちゃんの負けだね。ここは素直に謝った方が良いと思うよ。」
 今までの浩之であれば更に一言二言いったかも知れないが、あかりにこう言われてしまうと降参するしかなかった。

「わかったよ、俺が悪かった。」

 浩之は頭を下げた。

「だから御馳走してください、お嬢様。」
 それでもいつものノリは忘れない浩之だった。

「ま、そうまで言われちゃ断れないわね。」
「じゃあ、一緒に食べましょう。」

 綾香は持って来たバスケットから次々と中身を出す。
 そのバスケットは少なくとも4人分くらいは入りそうな大きさだった。

 内容はお握り、サラダ、鳥の唐揚げ、卵焼き、タコさんウインナ、ローストビーフであった。
 それなりに普通のお弁当ではあったが量は確かに多かった。

「「「いただきます。」」」

 そういうと3人はそれぞれのおかず、お握りに手を出す。

「来栖川さん、この卵焼き美味しい。」
「どれどれ。おっ、確かに美味いな。あかりが作ったのと負けないくらいの美味さだ。」
 その言葉を聞いて綾香は嬉しそうに微笑む。

「そう言ってくれると作った甲斐があったわ。」
「このサラダもドレッシングとマッチしていて美味しい。」
「どれ、俺も。」

 浩之もサラダに手を付ける。

「んっ?」

 サラダを口にした浩之は思わず首を傾げる。

「どうしたの、浩之。」
「サラダが変なの?」

 浩之の態度に綾香はいぶかしげに訊ねる。

「いや、このドレッシングの味に覚えがあってなぁ。」
「それもつい最近のことなんだ。」

 浩之は別に問題はないことを示すために答えた。

「なあ、綾香。これって市販品か?」
「違うわよ。私が作ったの。」
「そうか、でも何処かで味わったことがあるんだよなぁ。」

 そういうと思い出そうと頭を捻る。
 しばらく考えていた浩之だったが、突然綾香に訊ねた。

「綾香、これはお前が作ったんだろうけど誰に教えてもらった?」
「えっ」

 浩之の問いに綾香は思わず声を上げる。

「だって、普段作らない人間がこれだけ美味い料理を作るとなると誰かに教えてもらったと考えるのが普通だろ。」
「そうね、卵焼きにしても下味は大切だし、そういうノウハウってすぐに身に付くものじゃないしね。」

 普段から料理をしているあかりだけに浩之の疑問ももっともだと思った。

「はぁ、さすがに二人とも鋭いわね。」
 やれやれと綾香は答えた。

「セリオに教えてもらったのよ。やっぱりこういうのはあの子、得意だから。」
「やっぱりな。」

 浩之のその言葉に今度は綾香が質問した。

「やっぱりってどういうこと?」
「ああ、今朝食ったサラダと同じ味がしたからな。」
「それとこれとどういう関係があるの?」

 浩之の答えは綾香にはさっぱり理解できなかった。

「ああ、綾香にはまだ言っていなかったか。」
「実は俺、メイドロボを買ったんだよ。」

 綾香にそう告げる浩之だった。


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あとがき
 実はこの同じ来栖川製のメイドロボによる料理の味に関する部分は十二話をアップしてから考えついたネタだったりします。
 そのためドレッシングにするしかありませんでした。(^^;)
 これを思いついたとき朝のおかずをもうすこし凝った物にしておけば良かったと思ったのですが、覆水盆に返らずの言葉通りになってしまいました。
 もし、これを改訂することがあったらその時その点は変更したいと思ってます。


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