「オレ、お前の妹が売られたら、絶対買うよ。記憶はないかもしれないけど、それでもやっぱ、少しはお前の心が入ってんだろ?
…だったら、ふたりでまた、新しい思い出を作っていこうな」
俺はマルチとそう約束した。
でも、マルチは…。
このマルチは…。
マルチの心 −第一話−
マルチが来てから数日が過ぎた。
その間浩之はマルチを起動し、話しかけ、そして電源を切る、それを繰り返していた。
昨夜もマルチを起動してみたが、返ってくる答えは同じであった。
そしてそのことにいらだち、叩きつけるように電源を切ったあとベッドに潜り込む。
「マルチ、お前にはもう会えないのか?」
高校時代に会ったマルチのことを思い出しつつ、現状に涙で枕を濡らしながらそれでもいつしか眠りに入っていく浩之だった。
ピンポ〜ン、ピンポ〜ン
チャイムの音と共に女性の声が朝の藤田家に響いた。
「浩之ちゃ〜ん、起きてぇ〜。」
「浩之ちゃ〜んたらぁ〜、学校に遅れちゃうよぉ〜。」
女性は幼なじみの神岸あかりであった。
赤ん坊の頃からの付き合いで浩之の両親が仕事の都合で家を離れてからは彼女が高校時代毎日起こしに来ており、時には食事の
支度すら行っていた。それは大学に入った今でも変わらない。
浩之もあかりも共に同じ大学に通っている。
彼らの通う大学はこの地域の中でもトップクラスの大学で、それまで成績は中の上だった浩之は高二の時からがむしゃらに勉強しはじめて
この大学に合格した。
何故、この大学を目指すようになったのかあかりは薄々気が付いていた。
この大学は来栖川が出資しており、浩之は機械工学部、それもロボット工学を目指したからだった。そしてあかりはここの文学部に入った。
高校時代、浩之はあかりにメイドロボが欲しいかと尋ねたことがあった。
その時はなんでそんなことを聞くのだろうかといぶかったあかりであったが、マルチとの別れのあとであり、そして人間としか思えなかった
マルチのことを考えると胸が少しうずくのだった。
浩之の部屋の窓から浩之が顔を出した。
いつもなら、「毎日、毎日、大声で呼ぶな!恥ずかしいじゃないか。」と答える浩之であったが、今朝は普段と違っていた。
何となく元気がなく、一言「今行く」といって窓を閉じた。
数分ののちに玄関のドアが開き、浩之が現れる。
「おはよう、浩之ちゃん。」
「どうしたの?元気がないようだけど。」
藤田浩之研究家のあかりにしてみれば浩之の態度は不自然そのものだった。
「そんなことはないぞ、いつもと同じだ。」
浩之は努めていつもと同じ振りをしてみたが、あかりの目は誤魔化せなかった。
「ううん、そんなことないよ。ここ数日だんだん元気がなくなってきている。」
「なにかあったの?私にできることだったら相談して。」
上目遣いで浩之を見上げるあかり。
その目を見て浩之は『こいつには敵わないな』と思うのであった。
だが、その悩みをあかりに打ち明けるわけにはいかないと浩之は思った。
話を打ち切るかのように、事実うち切るつもりで浩之はあかりに声をかける。
「そんなことより、早く行かないと遅刻するぞ。」
そういって歩き出す浩之であった。
「あっ、待ってよ。」
そのあとをついていくあかり。
春先の心地よい風が二人の間をすり抜けていく。
天気は快晴でこのまま何処かへ遊びに行きたくなるような穏やかな日であった。
あとがき
(~ヘ~;)ウーン、話が進みません。つーか、書く量が少なすぎるんですね。(^^;)
しばらくはこういった感じでアップすることになると思います。
もっとも今回は連休中に数話先まで既に書きましたので推敲が終わり次第順次アップできると思います。
ただ、仕事が始まってしまえば書いている余裕がなくなると思いますので、更新は遅くなるでしょう。
できれば見捨てずに最後までお付き合いください。
m(_ _)m
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