あの別れの日から一年ちょっと、どうにか大学へ進学した俺はメイドロボを買った。
もちろん大学に入ったばかりの俺がいきなりメイドロボを買おうとしてもそんな金を持っているわけがない。
それゆえ親父に頼み込み代金はアルバイトで返す約束で購入した。 親父にしても高校の三年間一人きりに
していたという負い目があったのだろう、特に反対はされなかった。それとセリオタイプでなくマルチタイプにす
るというのも大きかったように思う。
そして今、俺の目の前にあのマルチがいる。
逸る気持ちを抑えつつ俺はマルチの電源を入れた。
ぶうぅぅん、という機械音がしたあとにマルチの目がゆっくり開いた。
「おはようございます。」
それがマルチの第一声だった。
俺はマルチに話しかける。
「マルチ、オレだ、浩之だ。…わかるか?」
「・・ユーザー登録。浩之…様ですね」
「…マルチ」
「・・なんなりとご命令ください。浩之様」
「なあ、マルチ、オレ、ちゃんと買ったぜ? あの日の約束通りにさ」
「・・……」
「…そりゃ、さすがにちょっと、貧乏学生にはツライ買い物だったけどさ、けど、約束だもんな?」
「・・……」
「おかげでこれからの大学生活4年間、オヤジに金を返すためにバイト三昧の生活だぜ。あーあー、バラ色の
大学生がよー。ちょっとは感謝しろよな?」
オレは微笑んで言った。
「…マルチ」
「・・はい、浩之様」
「ほら、なんとか言えよ?」
「・・なんなりとご命令ください」
「…違うだろ、マルチ」
「・・……」
「…前みたいに笑顔、見せろよ」
「・・……」
「…前みたいに甘えてこいよ」
「・・……」
「…また、頭撫でてやるからさ」
「・・……」
「…な?」
「・・なんなりとご命令ください」
「……」
「・・なんなりとご命令ください」
「……」
「・・なんなりとご命令ください」
「……」
「・・なんなりと…」
ぷつんっ。
耐えきれなくなって俺はマルチの電源を切った。
マルチには、このマルチには心はなかった。
マルチの心 −プロローグ−
藤田浩之が高校2年の春、来栖川エレクトロニクスからメイドロボの運用試験が浩之の通う高校で行われた。
そのメイドロボットの名前はHMX−12マルチ。
一週間ほどの運用試験であった。
生まれて間もないマルチはなにかにつけ失敗ばかりしていたが、今までのメイドロボと違いマルチには人間と
同じ心があった。
元々、困っている人間をみると放っておけない浩之はマルチも同じように放っておけなかった。それはマルチが
ロボットとして見えなかったことも影響していたのだろう。
掃除を手伝ったり、購買でパンを買ってやったりと何かと世話を焼いていた。
彼にしてみればそれは当然のことだったのだろうが、マルチにとっては嬉しくもあり、また申し訳ないことでもあった。
運用試験が終了した翌日、マルチは浩之の本を訪ねた。
そしてこれまでのお礼といって掃除、洗濯、料理(経験不足でミートせんべいになってしまったが)と尽くしてくれた。
浩之はそのお礼も兼ねてマルチを遊園地へ連れて行った。
そこでマルチのその後の話を聞くことになる。
マルチはこのあとデータをホストコンピュータにうつしたあと別のマルチが入ってテストを続けるということであった。
つまり、今いるマルチはいなくなってしまうのだ。
浩之はマルチに問う、それで良いのか、と。
マルチは答える、私は試作機ですから、と。
「それに私の心は妹たちに受け継がれます。ですから浩之さん、もしいつか、どこかで、わたしの妹たちを見掛けたら、
どうか、声を掛けてあげてください。わたしがこんなにも好きになった方ですもの、きっと妹たちも、浩之さんのこと、
大好きになるはずです」
マルチの決心は堅かった。
浩之は
「オレ、お前の妹が売られたら、絶対買うよ。記憶はないかもしれないけど、それでもやっぱ、少しはお前の心が入ってんだろ?
…だったら、ふたりでまた、新しい思い出を作っていこうな」
と答えるのが精一杯であった。
だが、現実は浩之の心を千々に乱れさせていた。
あとがき
量的に少ないのですが、今の私にはこれくらいを書くのが精一杯なんです。(^^;)
しかし、連載にして大丈夫だろうか?
更新は遅くなるかも知れませんが、時間がかかっても最後まで書き上げるつもりなので応援してください。
この話は、PS版マルチシナリオのあと、もし、マルチのDVDが届かなかったらという設定で書いてます。
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