プチセリオシリーズ第三話


「宿命の出会い」



 ぶ〜ん。

 私が気付くとそこには芹香お嬢様が心配そうな(といっても普段とあまり変わりありませんが)顔で私の顔を覗き込んでおられました。
 そしてその時私は気付きました。
 どうやら、芹香お嬢様のなでなででブレーカーが落ちてしまったようです。てへっ

「プチセリオ、大丈夫かい?」

 長瀬パパが心配そうに声を掛けてくれました。

「はい、大丈夫です!」

 私は元気いっぱい返事をしました。

「長瀬さん。マルチもそうだけど、プチセリオもブレーカーが弱いんじゃないの?」

 綾香お嬢様がそうおっしゃいました。

「いや、そんなことはない筈なんですけどねぇ。」
「帰ったら調べてみますわ。」

 長瀬パパはそういって綾香お嬢様の追及をかわしてました。

「大丈夫ですか?プチセリオさん。」

 セリオお姉さまも声を掛けてくださいました。
 私はセリオお姉さまにも大丈夫と言うと立ち上がり、そして芹香お嬢様にお礼を言いました。

気にすることはありません。
「えっ、『気にすることはありません』って。」
私のせいでこんな事になってしまい申し訳ありません。
「『私のせいでこんな事になってしまい申し訳ありません』とおっしゃいましても私も悪いのですから。」

 そんなやりとりをしているとそこに声を掛けてくる人がいらっしゃいました。

「よっ、先輩、綾香、久しぶり。」
「みなさん、こんにちは〜。」

 振り向くとそこには藤田浩之さんとマルチお姉さまが立っていらっしゃいました。

「やあ、藤田君、マルチ、今日は良く来てくれたね。」

 長瀬パパがそういってお二人のところへ近付いて行かれました。
 この時間はまだ開場前ですから関係者用のチケットをお渡しされていたんですね。

「長瀬さんがマルチと共に来てくれっていうからね。」
「そうですぅ〜、それで長瀬主任、私は何をすればよいのですかぁ〜。」

 その言葉をきっかけにマルチお姉さまと長瀬パパは今日の打ち合わせを始められました。

 マルチお姉さまは今、浩之さんのところで働いていらっしゃいます。
 そして私も浩之さんとはマルチお姉さまが定期メンテの時にお会いしてますので面識はあります。
 長瀬パパとマルチお姉さまが打ち合わせを始めたので暇になった浩之さんは私たちの方へやってこられました。

「おっ、プチセリオ。今日はすごく可愛い格好をしているなぁ。それって長瀬のおっさんの趣味か?」

 浩之さんは苦笑気味にそういって私の姿を眺められました。
 私が説明しようとしましたら綾香お嬢様が私の代わりに説明してくれました。

「ふーん、なかなかマニアックな職員がいるんだな。」

 浩之さんは更に苦笑しつつそう言われました。

「まあ、姉さんが気に入っちゃったから私もこれ以上はなにも言えないんだけどね。」

「恐れ入ります。来栖川エレクトロニクスのブースはこちらで宜しいでしょうか?」

 突然、私たちに声を掛けてこられた方がいらっしゃいました。

「はい、そうですが、何かご用ですか?」

 綾香お嬢様が訪ねられた方にお答えいたしました。

「私、桜井あさひのマネージャーをしております緒方プロダクションの篠塚弥生と申します。」

 その言葉を聞いてセリオお姉さまが出てこられました。

「お待ちしておりました。責任者の長瀬はあちらにおりますのでご案内いたします。」
「よろしくお願いいたします。」

 弥生さんはセリオお姉さまに軽く一礼するとその後ろにいた方に声を掛けられました。
「あさひさんはここでお待ちになっていてください。」

 そういうとセリオお姉さまと共に長瀬パパのところへ向かわれました。
 私があさひさんと呼ばれた方の方へ視線を向けるとそこには眼鏡を掛け、ベレー帽をかぶった女性が立っておられました。
 何か落ち着かない感じがします。その時私と目が合いました。
 そして私の姿を見るとにっこり微笑み、

「あ、あの、そ、それってカードマスターピーチですよね。」

 私は『はい、そうです』と答えました。

「え、ええと、そ、その、きょ、今日のアトラクションのため、で、しょうか?」

 私はそのような話は聞いていなかったので判りませんとお答えしました。
 私とあさひさんのやりとりを見ていた綾香お嬢様は何故か納得された顔をしています。 浩之さんもどうやら何かお分かりになったようです。

「あさひさん、こちらへ来てください。」

 弥生さんがあさひさんを呼ばれました。

「あ、は、はい。そ、それでは、これで。」

 あさひさんは一礼すると弥生さんの方へ走って行かれました。

「なるほどねぇ。」

 綾香お嬢様がつぶやきます。

「つまり、そういうことか。」

 浩之さんも綾香お嬢様のつぶやきに答えるようにおっしゃいました。
 しかし、芹香お嬢様と私はなんのことか判りません。

何がそういうことなのですか?

 芹香お嬢様が浩之さんに尋ねられました。

「えっ、『何がそういうことなのですか?』って。」

 浩之さんと綾香お嬢様の二人が芹香お嬢様に説明をされました。
 それによりますとあの桜井あさひさんとおっしゃる方はカードマスターピーチの声を当てている方で、私にカードマスターピーチの格好をさせたのも桜井あさひさんが今日来られるのが判っていたからだろうとのことでした。
 つまり、○○さんは桜井あさひファンでその桜井あさひさんを喜ばせようとして私にこの格好をさせたということです。

「それにしても桜井あさひが人前で何かをやるなんて事務所を移ってから初めてなんじゃないか?」
「そうなの?」

 浩之さんの言葉に綾香お嬢様が訊ねます。

「ああ、俺も詳しいことは判らないけど、去年のことはだいぶ話題になったからな。」

 こういうときこそ私の出番ですね。サテライトシステムから『桜井あさひ』に関する情報をダウンロードしましょう。

「あの、よろしければ私が説明いたしますけど。」

 私が申し出に綾香お嬢様も浩之さんも同意してくださいました。
 私は張り切って説明します。
 桜井あさひさんは「カードマスターピーチ」でデビューされました。
 そしてその新人離れした演技力と歌唱力、そしてアニメの面白さと相まってたちまちのうちにアイドルとなりました。
 事務所側は声優だけでなく、歌手としてまた俳優として売り出そうとしました。
 それはある程度成功しましたが、ある生番組での失敗がその後を大きく変える原因になってしまいました。
 その失敗とは、「突撃!毒電波少年」という生番組へ出演したときになにもできずに泣き出してしまったことがあったのです。そしてそれが元で彼女が作られたアイドルであることが暴露されてしまいました。
 彼女は元々上がり症でアドリブがまったくできませんでした。つまり台本通りに喋ることしかできなかったのです。ところが「突撃!毒電波少年」で司会者がアドリブで行った質問に彼女は答えることができず、その狼狽ぶりは見ている者が可哀想と思うくらいひどいものでした。一説によると桜井あさひの人気を妬んだ誰かが司会者を焚きつけたという話もあります。
 とにかくそれが原因で彼女は芸能界を干されることになりました。そして所属事務所からも解雇される事になったのですが、そこを救ったのが緒方英二さんでした。
 緒方英二さんは彼女を自分が主催するプロダクションに所属させ、密かにレッスンさせていたと噂されています。事情通の話によると桜井あさひという原石を前の事務所はうまく研磨できなかっただけであり、緒方英二という名プロデューサーが磨けば大きく光り輝くだろうと言われています。

「ふーん、そういうことがあったのか。でも、もしそうなら今日は何をするために呼んだんだろう?」

 浩之さんが私の話を聞いて疑問を呈されました。

「それについては私から説明しよう。」

 私が振り向くとそこには長瀬パパが立っていました。
 長瀬パパはお嬢様たちと浩之さん、そしてマルチお姉さま、セリオお姉さまに向かって今回桜井あさひさんをここに呼んだ理由を話されました。
 実は呼んだというより、緒方英二さんに頼まれたのだそうです。

 彼女は噂通り事務所を移ってから毎日上がり症を克服するためのレッスンを受けられていたそうです。そしてその仕上げとして実際に人前で試験することになりました。
 ただ、TV番組やコンサートではもし失敗した際のリスクが大きすぎます。
 そこでこのロボットショーでのミニコンサートを企画されたそうです。

「それって失敗しても構わないって事?」

 綾香お嬢様がおっしゃいました。

「いや、緒方さんの話だとその心配はないといってました。」
「ただ、あまり人の多い場所で行うにはまだ危険が伴う可能性があるともいってましたが。」
「それって人が少ないから大丈夫という風にも聞こえるんだけど。」

 浩之さんがそういうと、

「そんなことはありません。このロボットショーはここ数年うなぎ登りに参加者が増えています。」

 セリオお姉さまがそう答えられました。

「まあ、セリオの言うとおりだね。少なくとも今日一日で数万人の人間がここにやってくるだろう。」
「ただ、私としては大きな失敗さえしてくれなければ別に構わないと思っているんだよ。」
「確かに客寄せ効果はあるな。」
「そういうことだね、藤田君。それに人気の方も落ちてはいないようだし。」
「そうね、プチセリオにこんな格好をさせるほどのファンもいるみたいだし。」

 綾香お嬢様が長瀬パパの言葉を捕らえてそうおっしゃいました。
 長瀬パパはそれを聞くとばつの悪そうな顔をしました。

「じゃあ、我々も打ち合わせをしようかね。」

 長瀬パパはそう言うとこのあとの段取りを説明しはじめました。

 開場してからしばらくはHM−12、HM−13によるデモンストレーションを行い、来栖川製メイドロボの実力をみなさんに見てもらう予定だそうです。
 午後になってからは桜井あさひさんのミニコンサートが予定されており、そのバックに私たちメイドロボがコーラスをしたり踊ったりするそうです。
 私もマルチお姉さまもそのお手伝いをするそうでマルチお姉さまはこのあとすぐにそのデータをもらうそうです。私はサテライトシステムからダウンロードするように長瀬パパから指示されました。
 では、早速ダウンロードしておくことにしましょう。

<通信中>
<通信中>
<通信中>

 あれ?私宛にメールも届いているようですね。
 このメールアドレスを知っているのは研究所の人だけですから一般の人から来ることはありません。誰からでしょう?送信者のアドレスは開発七課の○○さんからですね。
 えーと、ASH-love1024というデータをダウンロードしておくようにと書いてあります。これってどんなデータなんでしょう?
 一応これもダウンロードしておきましょう。

<通信中>
<通信中>
<通信中>

 これってなんのデータなんでしょうか?よく分かりません。
 多分この格好と何らかの関係があると思いますので情報を検索してみましょう。
 なるほど、そういうデータですか。そうなると使うところを考えないといけませんね。
 さて、データのダウンロードも済みましたし、このあと私は何をすればよいのでしょうか?セリオお姉さまに聞いてみることにしましょう。

「セリオお姉さま。私はこのあとどうすればよいのでしょうか?」
「そうですね。桜井あさひ様の所へ行ってお手伝いすることがあればお手伝いしてきてください。もし、お手伝いすることがない、または終わった場合はこちらに戻ってきて梓さんや瑠璃子さんのお手伝いをお願いします。それとお客様から質問を受けた場合はその応対もお願いします。」
「はい、分かりました。それではあさひさんの所へ行ってお手伝いしてきます。」

 私は元気良く答えるとそのままあさひさんの控え室へ向かいました。

 コンコン

 控え室のドアをノックすると中から返事が聞こえ、弥生さんがでてこられました。

「何かご用でしょうか?」
「はい、何かお手伝いすることがあればお手伝いするようにという指示を受けて参りました。」

 弥生さんは私の姿を見るとやや目がきつくなったような感じがします。

「差し当たり、私がおりますので必要ありません。」
「そうですか、それでは失礼いたします。」

 お手伝いする必要がないのであれば表のお手伝いに行くしかありませんね。
 そう言って戻ろうとしたとき、弥生さんの後ろから声が聞こえました。

「あ、あの、や、弥生さん。え、えと、さ、さっきのメイドロボさんが来られたんですか?」

 この声はあさひさんですね。

「はい、そうですが。」
「あ、あの、わ、私、お、お話、したいんですけど。ダ、ダメですか?」

 どうやらあさひさんは私とお話ししたいようですね。

「少々お待ちください。」

 弥生さんはそう言うと中に戻ってなにやらあさひさんとお話ししているようです。
 聴力機能をアップさせれば何を話しているのか聞くことができますけど、それはプライバシーの侵害に当たりますので行いません。だって、私は良い子ですから。エッヘン

 しばらくして再びドアが開いて弥生さんが顔を出しました。

「あさひさんがあなたとお話ししたいそうなので中へお入りください。」

 私は『はい、失礼いたします。』と言うと中へ入りました。


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あとがき
 プチセリオシリーズ第三弾をお届けします。
 もっと早くアップしたかったのですが、冬コミの原稿があってなかなか書く時間が取れませんでした。(/_;)
 で、前回のあとがきでもう一回で終わらせると言っていたのですが、無理でした。(自爆)
 多分、次の回で終わると思いますけど、確約はできませんね。(^^;)
 当初の予定ではあさひを出すつもりはなかったのですが、何故か出演させてしまいました。
 まあ、そのおかげで終わらなかったのも事実ですけど。
 一話のあとがきで書いたこのSSを書く元になったサークルカットの絵は現在,、イベント情報のページで見ることができます。
 一応、冬コミ終了時までの期間限定ですので見てみたい方は早めにお願いします。
 なお、今回これと同時に第二話の方も少し手直ししました。

 あと、冬コミの新刊はプチセリオの外伝です。もしよろしければこちらの方も期待してください。


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