プチセリオシリーズ 第一話


「プチセリオ 有明に立つ」



 みなさんはじめまして、そしてこんにちは。

 まずは自己紹介しますね。
 私はHMX−13P通称プチセリオといいます。
 これでお分かりのように私はメイドロボットです。

 それも試作機なんです。形式名にXの文字があるのが証拠です。
 これが量産機だとXの文字が取れてHM−13Pになります。
 量産機といいましたけど実際には私の妹たちになります。

 私の妹たちが生まれてこれるかは私の双肩にかかっていますから頑張らなくてはいけません。

 さて、私が開発された経緯なんですが、何でもダウンサイジングのためだそうです。
 長瀬パパ(あっ、こういうとパパは何とも言えない顔をするんです。だからパパの前では『長瀬主任』とお呼びしてます。
で、私にそう呼ぶよう教えてくれたのは来栖川綾香お嬢様だったりします。)のお話によるとHM−12の大きさでHM−13の能力、
そしてHMX−12の感情機能を搭載させてコンパクトにまとめるのが目的だったそうです。

 本当だったらHMX−14とすべきところなんですが、色々な絡みがあってHMX−13Pに落ち着いたと聞きました。
 ですから、これに関しては私も良く知りません。詳しいことは長瀬パパに訊ねてください。

 自己紹介が長くなってしまいました。
 そろそろ本題に入らないと怒られてしまいますね。(って、誰に?)

 私は今、東京臨海副都心のビッグサイト前に来ています。
 今日、ここでロボットショーが開かれるので私もそのお手伝いに来ました。
 と、いうか、本当は私のお披露目も兼ねているのですが、実地研修ということでここまで一人で来るように言われたんです。

 でも、ここまで来るのは大変だったんですよぉ〜。
 ××にある来栖川の研究所から新橋駅に来るまでは良かったのですが、そこからゆりかもめに乗ろうと思ったら人、人、人。
 満員電車というものに初めて乗ってしまいました。
 満員電車で通勤している人達って本当に大変ですねぇ。

 で、その人たちはみんな「国際展示場前」駅で降りるんです。
 これだけの人がロボットショーに来るなんてすごいなぁと思ってしまいました。

 さて、私も会場に向かわないといけませんね。
 ぞろぞろと歩いている人の間を通っていきますけどなかなか歩きにくいです。

 そうそう、それまでにスタッフ入場証を準備しといた方が良いですね。
 ふふ、この周りにいる方々は一般参加者さんなんでしょうけど、私は長瀬パパからスタッフ入場証を貰っているのですぐに入れます。

 なぜなら今日の主役は私ですから会場前に準備しなければいけませんしね。

 では、入場証を……。

 えっ、ない?
 そ、そんな。ガサゴソガサ

 ガーン、ありません。

 落としてしまったのでしょうか?
 こういうときは落ち着いて考えないといけません。

 えーと、昨日充電する前に机の上に置いておいたんですよね。
 それで今朝起動してから準備をして…。

 私はロボットですからそれまでの記録は残っています。
 だから、それを遡ればなくしたかどうかははっきりします。

 ああっ!
 机の上に置いたままだった〜。

 どうしましょう。
 そ、そうだ。今日はセリオお姉さまが先に行かれているはずですからセリオお姉さま(HMX−13、最初のセリオタイプのことです。
今は綾香お嬢様のところにいらっしゃいます。)に連絡すれば何とかなるかも知れません。

 私だってセリオタイプの端くれですから当然サテライトシステムを使うことはできます。これを使ってセリオお姉さまに連絡を取れば大丈夫ですね。
 では早速連絡を取りましょう。(送信中・送信中・送信中)

 えっ、『電波の届かないところか、電源が入っていません』ってどういうことですか? もしかしてセリオお姉さまはまだ起動されていないのでしょうか?
 それともここって電波を遮断するようになっているのでしょうか?

 私はだんだん悲しくなってきました。
 目から涙がこぼれたかと思うと私はそのまま泣き出してしまいました。

 その姿を見て私に声をかけてくる方がいらっしゃいました。

「あ、あの、どうなさいました?」

 私が顔を上げると紫色の長い髪をしてピンクハウスを着た女性が私の前にいました。
 お年は16〜18歳くらいでしょうか?
 手にはショッピングカートを持っています。

 私はその方に事情を話しました。
 入場証を忘れてしまったんですと。
 するとその方はおっしゃいました。

「うーん、それじゃあどうにもなりませんね。」
「入場証がなければ一般参加者としてしか入場できませんし。」

 私はまた涙がこぼれてきました。

「もし取りに帰ったとしたらどれくらいかかるのでしょう?」

 私はここまで来るのにかかった時間を答えました。

「それでは戻ってくると遅くなっちゃいますね。」
「むしろ一般入場した方が早いと思います。」

 やっぱりそうですか。
 私はそう答えてどうしたらいいか途方に暮れてしまいました。

「もしよろしければ、私と一緒に来ませんか?」

 その女の方は私にそうおっしゃいました。
 どういうことでしょうか?
 私は訊ね返しました。

 その方がおっしゃるにはお友達と始発でやってこられて既に並んでいたそうです。
 そしてこの方はお手洗いに行くため行列から一時的に外れたとのこと。

「だから、私たちのところへ並べばそれほど待たずに中に入れますよ。」

 でも、それって割り込みになるのでは…。
 私がそういうと、

「大丈夫、一人くらいだったら文句を言う人はいないと思います。」
「それにあなたは可愛いから余計問題ないでしょう。」

 はっ?それってどういうことでしょうか?
 私が疑問を呈すると、

「まあ、私に任せてください。」

 そういって私の手を取ると自分たちが並んでいるところまで連れていってくれました。
 その場所は確かに前の方でした。
 お友達のところへ着くとそのお友達に声を掛けました。

「ごめんなさい、松原さん。遅くなっちゃって。」
「あっ、姫川さん。」
「実はね…」

 姫川さんはこれまでの経緯を松原さんに説明しようとしましたが、

「ごめんなさい、私もそろそろ限界だから。それはあとで聞くからね。」

 そういうが早いかその場からすぐに立ち去って行かれました。。
 残された私たちはその後ろ姿をしばらく見ていました。
 松原さんと呼ばれた方が小さくなると姫川さんが私に話しかけてきました。

「ごめんなさいね。彼女もお手洗いに行きたかったものですから。」

 私はいいえ、こちらこそご迷惑をおかけしましてと答えました。

「そういえば自己紹介がまだでしたね。」
「私は姫川琴音といいます。そしていま走っていった人が松原葵です。」

 あっ、私はHMX−13P通称プチセリオです。
 私も自己紹介しました。

「えっ、それってコスプレじゃなかったんですか?」

 琴音さんは何か驚いたようでした。
 ところでコスプレって何でしょう?
 よく分かりません。

 私は琴音さんに『コスプレ』って何ですかと聞いてみましたが、

「メイドロボに見えませんでした。」

 どうやら私の声は聞こえてないようです。
 あの〜、私は再び声を掛けますが琴音さんは、

「マルチさんみたいですね。」

 と、おっしゃいました。

 えっ、『マルチさん?』
 マルチさんといいますとHM−12ではないですね。
 多分、HMX−12のマルチお姉さまのことでしょう。
 琴音さんはどうやらマルチお姉さまを知ってらしたようです。

 マルチお姉さまをご存じなんですか?
 私は琴音さんに尋ねました。

「ええっ、私の高校で一週間ほど運用試験を行われまして、その時知り合いました。」

 そうだったんですか。
 それならば理解できます。

 私と琴音さんはしばらくマルチお姉さまのことで盛り上がりました。
 そうしている間に松原葵さんが戻っていらっしゃいました。

「あっ、松原さん。」
「お待たせしました。ところで姫川さんこちらの方は?」

 松原さんはそう訊ねてきました。
 姫川さんはこれまでの経緯を松原さんに説明しました。

「へぇ〜、マルチさんの妹になるんですか。」

 そして何故私がここにいるのかを説明すると、

「藤田先輩がいたら『マルチらしいな』といいそうですね。」

 そういってにっこりと笑いました。
 姫川さんもそうですねといって一緒に微笑まれていました。
 何か莫迦にされたような気がするんですけど気のせいでしょうか?

「おっ、そろそろ開場だな。」

 話をしている私たちの前にいた男性がそんなことを言っているのが聞こえました。
 私の内部にある時計で確認してみると確かに午前11時になってます。
 見回してみると前の列が動き出してます。

 確かに開場したようですね。
 私たちはそのまま一緒になって移動していきました。

 中にはいると私はお二人にお礼を言って来栖川のブースに向かうことにしました。
 お二人は『気にしないで、マルチさんの妹なんだから。』そういって東ホールの方へ行かれました。
 姫川さんは中に入った瞬間人が変わった感じがしましたが、多分気のせいでしょうね。 でも、松原さんも同じ事を感じたのか
汗をかいているように思えましたが…。

 お二人と別れたあと、私は西ホールの方へ向かいました。
 遅刻してしまいましたが、長瀬パパは多分許してくれるでしょう。
 ただ、セリオお姉さまにはお小言を言われてしまいそうですが…。
 でも、連絡をしようとしたのに連絡が取れないセリオお姉さまにも責任の一端はありますよね。

 そんなことを考えながら歩いていたのですが人が多くてなかなか前に進めません。
 早く行かないといけないのに。
 その時でした。
 私に声を掛ける方がいらっしゃいました。

 私が振り向くとそこには男性が二人立っていました。
 一人の方は痩せていて眼鏡を掛けています。そして肩掛け鞄と胸のポケットにある携帯電話のストラップには小さな人形が、
そして左手には水着を着た女性の絵が描かれている紙袋、右手にはビデオカメラを持っています。

 もう一人の方は恰幅が良く、頭にはASAHIと書かれたワッペンの着いた帽子をかぶり、女性の絵が描かれたTシャツを着ていらっしゃいます。
更に胸にはラミネートに印刷された女性の絵が描かれたワッペンとお腹のところはバッチが付けられ、背中にはポスターでしょうかそれを大量に
背負っておられます。会場内が暑いせいなのか、それとも汗っかきなのでしょうかハンカチでしきりに顔を拭いておられます。

 何かご用でしょうか?
 私がそう答えますと痩せた方が私に話しかけてきました。

「そこのヤングウーメン、一枚写真を所望して良いでござるか?」

 どういう日本語なのでしょう?よく分かりません。
 私が戸惑っていますともう一人の方がおっしゃいました。

「か、可愛いんだなぁ〜。セ、セリオのコスプレをする子は多いけど、これほど似合っている子も、す、少ないんだなぁ〜。」
「さよう、さよう。それだけに青春のメモリーとして記録しておかなければあとで後悔するでござるよ。」

 私はお二方の異様な雰囲気に思わず冷や汗がでてきました。
 でも、私はメイドロボットなんですから冷や汗がでてくるはずはないのですが…。
 何故でしょう、分かりません?

 私はこの状況から逃げ出したくて思わず『はい』と答えてしまいました。

「きょ、許可が下りたんだなぁ〜。では撮るんだなぁ〜。」
「了解でござるよ。それではこちらに視線を向けて欲しいでござるよ。」

 そういって何枚か写真を撮られました。
 あれっ?一枚って言ってませんでした?

「あ、ありがとうなんだなぁ〜。」
「感謝するでござるよ。」

 お二方はそういうと私から離れていきました。
 後ろの方から『あとで、や、焼き増しして欲しいんだなぁ〜。』『それは当然でござるよ。大きく引き延ばして部屋に飾るでござるよ。』
 そういう声が聞こえましたが、聞こえなかったことにします。

 でも、あのお二方も『コスプレ』と言う言葉をお使いになってましたけど、『コスプレ』って何のことでしょう?
 そうですね。こういうときこそサテライトシステムを使えばよいのです。

 では、早速ダウンロードしてみましょう。(受信中・受信中・受信中)
 えっと、つまりアニメやゲームのキャラクターと同じ格好をするということですか。
 そうしますと私はメイドロボの格好をした人間と間違われていたということになるんですね。

 ふと周りを見回してみるとそういった格好をされている方がちらほら見かけます。
 中にはメイドロボットの格好をされている方もいるようですね。

 ロボットショーって結構変わった方もいらっしゃるのですね。

 あっ、いけない、早く行かないといけません。



 やっと西ホールにたどり着きました。
 あとは来栖川のブースに行くだけです。

 あ、あれ?
 中を見ると人・人・人。
 それはよいのですが、ブースがありません。
 あるのは机が大量に並べてあってその上には何か本のようなものが置かれています。
 そしてその机の内側にも外側にも人がいて、どうやらその本を売買しているようですね。
 一体、これはどういうことでしょう?
 訳が分かりませんけど、とにかく中に入って調べてみましょう。

 やはり、置いてあるのは本のようです。壁際の方には行列ができているようですね。
 みなさんこれを買っているようです。

 ロボットショーで本を売るという話は私は聞いていません。
 それにしても来栖川のブースはどこにあるのでしょうか?

 探しているときにふとある机の上に目が留まりました。
 その机の上にある本には「HM−13の秘密」という題名が書かれていました。
 私はその本を手に取ると中を読んでみました。

 それは漫画でした。内容はHM−13を買ったマスターが性欲処理のためにHM−13を使うという内容でした。

 その時、それまで隣の人と話していたその机の持ち主?の方が私に気付き、慌てたように私にいいました。

「お嬢ちゃん、それはお嬢ちゃんが読む本じゃないよ。」

 そういって私の手からその本を奪い取りました。
 心なしか顔を赤くして焦っておられるようです。
 私はHM−13にはそのような機能は付いていないと思いますが。
 と、言いました。

 するとその方は、

「いいの、いいの、そんなことは百も承知なんだから。」
「でも、メカフェチはこういうシチュエーションが萌えるんだよ。」

 そうおっしゃいました。
 どういう意味なのかよく分かりません。

「ま、まあ、それはともかく、お嬢ちゃんが読む本じゃないからあっちへ行ってね。」

 そういって私を追い払おうとしました。
 その方がそうおっしゃるのであれば私はそれに抗うことはできません。
 分かりましたといってその場を離れました。

 しばらく中を歩いてみましたが、結局来栖川のブースは見つかりませんでした。
 途方に暮れた私はセリオお姉さまにもう一度連絡を取ることにしました。
 今度は繋がったようです。
 私はセリオお姉さまに話しかけました。

 あっ、セリオお姉さまですか、プチセリオです。

『―あなたは今どこにいるのですか?あなたがいないから研究所は大騒ぎです。』

 お姉さまは第一声にそうおっしゃいました

 えっ、どういうことですか?

 私はロボットショーのために有明に来ているのですが。
 お姉さまこそこちらに来られなくて良いのですか?

『―ロボットショーは明日からです。』

 はえ?じゃあ、今日は?

『―本日有明で開催されているのはこみっくパーティです。』
『―分かったら早く帰ってきてください。』

 そういってお姉さまからの通信は切れました。

 どうやら間違っちゃったようです、てへっ。


   戻る   次へ


あとがき
 さて、プチセリオはいかがだったでしょうか?
 この元になったのは実は冬コミ申込み時のサークルカットだったりします。
 それを見たときにこの構想が浮かびました。
 ただ、どんな話にしようかまとまらなかったのでしばらく放っておいたのですが、急に思い立って一気に書き上げてしまいました。
 やはり、一人称で書くのは楽ですね。

 今回、琴音と葵を登場させましたが、これは新城聡美さんの漫画の影響があります。
 新城さんの漫画では琴音だけですが、葵を出したのは単に同級生だったからです。(笑)
 琴音が同人少女というネタはよく見かけますので私もその設定を使わせていただきました。
 葵は琴音に誘われてやって来たという設定です。
 どう誘われてきたかと言えばエクストリーム関係の同人誌があると誘ったのでした。
 でも、琴音が葵に荷物持ちをやってもらおうと影で考えていたことは内緒です。

 それとヲタク(タテ)と(ヨコ)を出したのもこみパだからでした。
 話としてはもうすこし膨らましたかったのですが、下手に書くとネタバレしそうだったので諦めました。

 このプチセリオですが、マルチのボディにセリオの顔、そしてセリオの能力があると考えてください。
 本当はもうすこし小さくしたかったのですが、それだと無理があるかと思って諦めました。
 HMX−12マルチと同じように感情機能があるので表情は豊かです。
 ただ、精神年齢的でいうと11〜12歳くらいの女の子といった感じに考えてます。
 起動してそれほど時間が経過していないため世の中のことをまだ良く判っていません。
 性格は明るく前向きで喜怒哀楽がはっきりしています。ただし、怒に関してはロボットなためにありません。

 話の途中でプチセリオが読んだ同人誌(HM−13の秘密)はお分かりのように18禁のエロ漫画です。(^^;)
 ただ、ロボットであるセリオやマルチにとって人間の性行為というのは恥ずかしいものだと思わないと私は考えます。
 例えますと人間が動物の交尾を見て恥ずかしいとあまり感じないのと同じ事ですね。

 これから先、気が向いたらこのシリーズは書いていきたいと思ってますが、いつになるかは確約できません。(^^;)
 まあ、次の回に関してはロボットショーを題材にすれば書けるかなと思ってますけど、細かい内容はまだ考えてませんので
実際それになるかも分かりませんね。(苦笑)
 もしよろしければこちらも「マルチの心」同様応援してください。


ご意見・ご感想がありましたらこちらからお願いします。

■ おなまえ  (必須)
■ メールアドレス  (必須)
■ 点数
■ タイトル
■ 感想

futomi's CGI Cafe - MP Form Mail CGI