有馬菜々はダークグリーンな色石の夢を見るか −由乃の妹考−

 「妹オーディション」の発売と共に由乃の妹は菜々で決定と言うのをネットでよく見かけるようになった。だが、私は「レディGO!」発売後に可南子が祐巳の妹に決定と叫ばれたときと同じものを感じてしまう。
 この巻において祐巳の妹はほぼ瞳子で確定であり、可南子の可能性は完全に消えたと言ってよいだろう。しかしながら祐巳の線は消えたにしろ、由乃の妹に関しては果たしてあり得ないことなのだろうか?むしろ菜々の方が祐巳の妹関連に対する可南子と同じではないのかという疑問が生じた。よってこれに関して考察してみた。

 そもそも私は「レディGO!」の時点では可南子が妹になる可能性は瞳子よりも低いと思っていた。むしろ「レディGO!」で可南子は祐巳の妹になるためのスタートラインに立ったと私は感じた。瞳子は「パラソルをさして」がそのスタートラインと考えるので「レディGO!」では既にリードしていたと考える。ゆえに可南子はそのあとを追う形になるのだがその差は縮まらないうちに「特別でないただの一日」、「イン ライブラリー」で更に差は広げられ、「妹オーディション」で祐巳の妹にならないことが確定した。
そこで「レディGO!」の時点でもし、可南子が祐巳の妹にならないとしたら彼女はいったい何のために登場したのか考えてみる。
単なる当て馬として登場したのであればその後の登場人物紹介に挿絵が載ることもなかっただろうし、「レディGO!」最後の祐巳のセリフ、

>可南子ちゃんとは、これからも長くつきあうはずだから。

が、生きてこなくなる。
 私は「レディGO!」P80からの玉蹴りのシーン、およびP111ページからの棒引きのシーンにおける乃梨子、瞳子、可南子の性格の違いと3人のやりとりは乃梨子世代の山百合会を暗喩したものではないかと思った。
 そうなると瞳子と可南子が山百合会入りするということになり、この二人が祐巳と由乃のどちらかの妹になると予想するのは別段おかしなことではないと考える。
 この時点で私は祐巳の妹は瞳子が有利であるため可南子が祐巳の妹になるにはよほどの巻き返しが必要だと思っていたが、「妹オーディション」でその可能性はなくなったのでそうなると残りの可能性は由乃の妹ということになる。
 この考えが間違ってなかったとして「妹オーディション」を読んでみると必ずしも菜々が由乃の妹として確定したわけではないこと、むしろ可南子が由乃の妹になったときの逃げ道がずいぶん隠されていると感じた。
それらを一つずつあげていこうと思う。

まずは可南子から。
「イン ライブラリー」で瞳子が可南子のことを「彼女。変わりました」と言っていたが、それが「妹オーディション」ではっきりと示された。「特別でないただの一日」でその片鱗(地団駄を踏んだりしたシーンでなかなか可愛いところを見せるなと思った)は出てきていたように感じたがそれ以前と以後ではまるっきり変わったと私も思った。
それはP90からシーンに現れている。

そのなかで気になるのはP95で可南子が、

>「いいえ、私は、今のところどなたの妹になる気はありません。来年になったら、妹はもってみようかと思いますが」

と、いうところである。
 ここには二つの伏線が隠されていると思う。
「今のところ」ということはこの先心変わりする可能性があることを示している。
「妹はもってみようかと思いますが」は現状では言い切るつもりはないが菜々を妹にする伏線ではないかと考える。この理由は最後に述べる。
作者の上手なところはこのあとすぐに、

>可南子ちゃんにとって、お姉さまと呼べる人がいるとしたら、それはこの世で夕子さんだけなのかも知れない。−祐巳は、そう思った。

と、続けて可南子は今も夕子のことを思っているように読者にアピールさせていることである。だが、これは祐巳の感想であってその後すぐにそれを否定すると思わせる文章が続く。

P97-98
「会ってみたら、祐巳さまのように夕子先輩も双子の片方だったんだって気付いたんです。だったら、しょうがないか、って。たぶん、昔、私と同じ一つのバスケットボールを追いかけていた夕子先輩は、今はきっと火星で生きているんですよね」

 可南子は祐巳も夕子も理想化していて、その理想像に惚れていたと言ってよいと思う。
「特別でないただの一日」で夕子に会うことによって思い出の夕子から生身の夕子を認めることで過去の理想化した夕子と決別したように感じる。
要するに過去の夕子およびこれまでのしがらみ、束縛から解き放たれて自由になった感じがするのである。ゆえにもし夕子がリリアンにいたとしてもこのときの可南子であれば夕子の妹にすらならなかったのではないかと私には思えて仕方がない。

次に前三薔薇様のシーンがあげられる。

前三薔薇様が剣道の試合会場で由乃の妹を当てっこするシーンで江利子が最初に選ぼうとしたのが瞳子と可南子だった点が非常に気になるのである。
この二人は江利子好みであった可能性が高い。
にもかかわらず、蓉子と聖によって逸らされてしまう。これがなければ江利子がどちらを選んだのか非常に興味ある所であった。
そして可南子を否定することになる理由も蓉子の

>「由乃ちゃんの妹にはならない、ってこと。可南子ちゃんはね、夕子ちゃんがいいのよ」

というセリフによるのだが、この時点で可南子は夕子に対して吹っ切れたと思うのでこれは正確ではないと考える。しかしながら学園祭以降の可南子に蓉子が会っていないわけでそれで蓉子を責めるのは酷であろう。
 それとここで重要だと思うのはこの蓉子のセリフを書き直すなら、「可南子は夕子が好きだから由乃が妹に請うても断るだろう」と読めることである。
 言い換えるなら夕子に対して吹っ切れた可南子であれば受ける可能性があると考えられる。
それに対し、瞳子に関しては聖のセリフ、

>「あれは電動ドリルちゃん。あの子も、由乃ちゃんの妹タイプじゃないわね」

で可南子同様に否定されているが、由乃の妹タイプじゃないという点が注意すべきところである。この由乃の妹タイプじゃないというのは由乃の好みのタイプじゃないと言い換えることも可能で、由乃から瞳子に対してアプローチすることはないであろうと読めるのである。
 どちらも否定しながら片方は完全否定、片方はその可能性の含みを持たせている。

 由乃に関してはP13-14において姉妹関係で引け目を感じたくないがため自分より剣道が勝っている妹はごめんだと考えている。
 だからこそ最後で由乃は思い悩んでいるのであろう。
 だが、由乃は菜々に対してどこまで気に入ったのかははっきり言って分からないが、気になる存在であることは間違いないだろう。
そしてここで重要なのは由乃の宣言である。

>「わかった。三年生になっても妹ができていなかったら、その時は私、有馬菜々を妹にする」

これを読んだとき、私は「レディ、GO!」最後の祐巳のセリフ。

>可南子ちゃんとは、これからも長くつきあうはずだから。

を思い出さずにはいられなかった。
 このセリフが祐可妹説の根拠にする人が多かったからである。
 私はこれを初めて読んだとき、これによって可南子が妹になると言い出す人が増えるだろうと予想した。そしてそれは見事に当たった。 けれども私はこれを妹の根拠にするには弱いと思っていた。
 それは長くつきあうのは間違いないにしてもその関係が姉妹であるとは限らないからである。もちろん姉妹として長くつきあう選択もあるだろうが、先輩後輩として、山百合会の一員として長くつきあう可能性も姉妹として付き合うのと同じ確率であると思うからである。
 そしてこの様にいくつかの解釈ができるものだけで判断するには危険だと私は思う。
 これを根拠にした人はそういった解釈ができることに気付かなかったか、あえて都合のよい解釈をしたからであろうと推測する。
 これと同様のことがこの由乃のセリフにも見受けられる。
 つまり、「三年生になっても妹ができなかったら」という一文がそれである。
 少なくとも三年生になるまで妹探しはやめないといっているわけでその間に菜々以外の一年生を妹にする可能性を示唆している。この場合その筆頭にあげられるのは現在、読者的にはフリーの可南子になる。少なくともこのセリフで可南子が妹になることを完全否定することは不可能だと考える。

 こう書くと由乃と可南子には接点がないと言い出す人がいると思うのでそちらに関しても書いておく。
 由乃と可南子に接点がないというが、実際には祐巳を妹にする前の祥子と志摩子ぐらいの接点はあると思われる。しかしながらそれ でも由乃が可南子に手を出さないのは可南子が祐巳の妹候補とまわりから見られているからである。祐巳の妹が決まらない時点で  可南子に手を出すことは親友の妹候補を横から奪ったと言われる可能性がある。それは由乃にとっても祐巳にとっても本意ではないだろう。それゆえ、由乃は今のところ可南子に対し興味なしの態度を取っていると考える。
 P16で祐巳のおこぼれ云々と言ってはいるものの由乃は自分で言っていたことを反故にすることがあるのでこれもどこまで信じてよいのか疑問である。(反故にした例、レディ、GO!で玉逃げのシーン。最初は赤チームを攻撃するのよと言っておきながら志摩子を見たら志摩子へ矛先を変えた。)

 ここから先は希望混じりの憶測になるが、もし由乃と可南子が姉妹になるのであれば祐巳と瞳子が姉妹になったあとであると考える。 こうなればリリアン学園内部でも可南子はフリー状態になったと思われるわけでここで由乃が妹にしても後ろ指を指されることはなくなる。もちろんこれだけでは由乃と可南子の接点が少なすぎるので祐巳と瞳子が姉妹になる時にこの二人がそれぞれ奔走することでお互いをじっくり見る機会を与えることになるだろう。

 それとこれはちょっと弱いと思うのだが、P166の祥子のセリフ、

>「乃梨子ちゃんなんて、出来すぎなくらいなのよね。瞳子ちゃんも、可南子ちゃんも、思い返せばよく気がつく子だったわ」

も、気になるところである。
 ここで瞳子ちゃん達または可南子ちゃん達とひとまとめにせず、乃梨子と並列にしているのも乃梨子世代の山百合会を示唆しているように感じてならない。
 少なくともこの流れであれば瞳子が祐巳の妹になるのはほぼ確定状態であるから、可南子も山百合会入りするのではないかと勘ぐりたくもなる。

菜々に関して言うなら由乃のロザリオに興味を示した部分をあげよう。
ただ、この時点で菜々が由乃にどれだけの興味を持っているのかは分からない。
しかしながら由乃が持つロザリオにはかなり興味を引かれたことは間違いないだろう。

「チャオ・ソレッラ」で由乃が令から貰ったロザリオを渡したくなるような妹が欲しいと言っていたのでこのロザリオは多分妹へ行くことは間違いないと考える。

これまでに出てきた由乃の妹への希望は

1.姉妹関係で引け目を感じたくない。
2.令目当ては嫌。

であり、菜々が妹になったとしたら姉妹関係で由乃が引け目を感じることは間違いなさそうである。それに対し可南子が妹になったとしたら令目当てではないははっきりしているし姉妹関係で由乃が引け目を感じることもない。(菜々が令目当てであっても卒業してしまうので影響は少ないと考えるが、令と由乃の関係からすると卒業してからもあまり変わらないのではないかと考える。仮に令がリリアン大学へ進むとしたら帰りは一緒に帰ったりしそうだ。そうなるともし菜々が令目当てだったとしたら由乃との仲はこじれそうに思う。)さらに可南子は由乃から貰ったロザリオに特別の感情を持つとは考えにくいので妹を作ったとしてもそのロザリオを与えてしまう可能性は高いと思う。なので菜々を妹にすれば菜々も由乃のロザリオを貰うことができ、可南子も妹を作ることができ、由乃も孫であれば引け目を感じることもないと考えるので三方一両損ならぬ三方一両得になる。可南子のところで述べた菜々を妹にする伏線ではないかと考えるのもこうなると誰も損しないからである。
要するに私は菜々が黄薔薇ファミリーに入るとしても由乃の妹ではなく、孫としてではないかと予想するのである。


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